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2008年6月22日 (日)

都会の夏の夜/サラリーマン

052

東京のサラリーマンたちの姿が
中也によってとらえられました。
銀座か新宿か東中野か横浜か
相も変らぬ都会の夜の風景です。

ラアラア
ラアラア

サラリーマンたちが高唱する中身は
ききとれません
ただラアラアとだけ聞こえます

糊のきいたよそ行きの白いシャツの襟も
曲がちゃって

口を大きく開ききった
その心がどこか悲しい
頭の中は土の塊にでもなってしまったかのように
ラアラアとだけ
がなりながら
帰っていく

ここには、しかし
非難がましさはありません
あきれているばかりではなく
サラリーマンへの哀れみのようなものさへ
漂います

いい加減に
おれも
ラアラアと高吟したいよなあ
という共鳴の響きすらあります

 *

 都会の夏の夜

月は空にメダルのやうに、
街角(まちかど)に建物はオルガンのやうに、
遊び疲れた男どち唱ひながらに帰つてゆく。  
――イカムネ・カラアがまがつてゐる――

その脣(くちびる)は胠(ひら)ききつて
その心は何か悲しい。
頭が暗い土塊になつて、
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。

商用のことや祖先のことや
忘れてゐるといふではないが、
都会の夏の夜(よる)の更(ふけ)――

死んだ火薬と深くして
眼に外燈の滲みいれば
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。

(佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』角川文庫クラシックスより)

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