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2008年6月10日 (火)

中也が安吾に挑む時

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「(前略)私はこの酒場で中原中也と知り合った。」と、
坂口安吾は「ウヰンザア」という酒場での
中也との初対面について書いています。
「二十七歳」という標題の年代記的小自伝で、
27歳の自らを回想し、
中也を初めて知った時の事件にふれます。

――中原中也は、この娘にいささかオボシメシを持っていた。そのときまで、私は中也を全然知らなかったが、彼の方は娘が私に惚れたかどによって大いに私を呪っており、ある日、私が友達と飲んでいると、ヤイ、アンゴと叫んで、私にとびかかった。
 とびかかったとはいうものの、実は二、三メートル離れており、彼は髪ふりみだしてピストンの連続、ストレート、アッパーカット、スイング、フック、息をきらして影に向かって乱闘している。中也はたぶん本当に私と渡り合っているつもりでいたのだろう。私がゲラゲラ笑いだしたものだから、キョトンと手をたれて、不思議な目で私を見つめている。こっちへ来て、いっしょに飲まないか、とさそうと、キサマはエレイ奴だ、キサマはドイツのヘゲモニーだと、変なことを呟きながら割りこんできて、友達になった。非常に親密な友達になり、最も中也と飲み歩くようになったが、その後中也は娘のことなど嫉く色すらも見せず、要するに彼は娘に惚れていたのではなく、私と友達になりたがっていたのであり、娘に惚れて私を憎んでいるような形になりたがっていただけの話であろうと思う。
(角川文庫「暗い青春・魔の退屈」『二十七歳』より)

「不思議な目」とはどんな目だろう。
安吾は、中也の目に
ただならぬものを感じたに違いありません。
小僧をつかまえて、
からかってやろうなどという優越が、
微塵もありません。

安吾の本能になにかが伝わりました。
なにかが電撃的に伝わりました。
一瞬のうちに、二人は友達になりました。

それにしても
みかけ上はまるで異なる風貌をしていたに違いない二人の
出会い。

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