汚れつちまつた悲しみに/悲しみ一般と泰子
狐裘(こきゅう)は
わかりやすく言えば
ミンクの毛皮とか
豹(ひょう)の毛皮とか、のような
女性が身に着ける衣裳……。
だから
汚れちまった悲しみの主語は
中也から去った女
長谷川泰子である
と読むのは自然ではある
けれど
「汚れっちまった」と
わざわざ促音便を用い
(表記は「汚れつちまつた」です)
白秋調で歌われたこの詩を
長谷川泰子の悲しみに限定するのも無理である
たとえ文法的に
泰子の悲しみを歌ったものだとしても
泰子の悲しみを通じて
泰子の悲しみにかぶせるように
中也自身の悲しみを歌っている
世間はそのように受け止めてきた
のであったし
――詩人が「汚れつちまつた悲しみ」と歌う時、それは彼のあらゆる個人的な事情を離れて「汚れつちまつた悲しみ」一般として感じられるのである。(大岡昇平)
大衆の想像力が間違えることもなかったのだし
分析よりも感じることが
重要だということですね。
*
汚れつちまつた悲しみに……
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日は風さえ吹きすぎる
汚れつちまつた悲しみは
たとえば狐の革裘
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる…
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