失せし希望/空の月
昭和5年(1930)4月「白痴群」第6号に載った作品です。
同号の発行で「白痴群」は廃刊になりました。
この他に
「盲目の秋」
「わが喫煙」
「妹よ」
「汚れつちまつた悲しみに……」
「無題」
「更くる夜」
「つみびとの歌」
「雪の宵」
「生ひたちの歌」
「時こそ今は……」が第6号に掲載されました。
*吉田凞生編「中原中也必携」別冊国文学NO.4
中也の独壇場の観がありますが
逆の意味で
グループの危機であったことも想像できます。
暗い空へ
ぼくの若き日の希望は
消えていってしまった
夏の夜の星のように
いまも遠くの空に見え隠れしている
ぼくの若き日の夢、希望
今は
はたとここに打ち伏して
獣のように、暗い思い
その思いは
いつになれば晴れるのやら分かりもしない
溺れた夜の海の中から
空に浮かんだ月を見るようだ
波はあまりに深く
月はあまりに清い
暗い空へ
ぼくの若き日の希望は
消えていってしまった
直訳すると
こんな風になりますが……
空の月は
泰子らしい……。
そう読まなくても
OKですが。
ここは
そう読んだほうが
すんなりしませんかね。
*
失せし希望
暗き空へと消え行きぬ
わが若き日を燃えし希望は。
夏の夜の星の如くは今もなほ
遐(とほ)きみ空に見え隠る、今もなほ。
暗き空へと消えゆきぬ
わが若き日の夢は希望は。
今はた此処(ここ)に打伏して
獣の如くは、暗き思ひす。
そが暗き思ひいつの日
晴れんとの知るよしなくて、
溺れたる夜(よる)の海より
空の月、望むが如し。
その浪はあまりに深く
その月はあまりに清く、
あはれわが若き日を燃えし希望の
今ははや暗き空へと消え行きぬ。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)
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