木蔭/詩人の休息
詩作品そのものから
しばし離れざるを得ず
詩集「山羊の歌」の外部を
少しばかりたどりました。
梅雨が明けて
季節は夏です。
意図したわけではありませんが
この時期の詩といっていいでしょう
木陰が気持ちよい季節です
夏、真昼、神社の境内、楡の木陰……
これらは
ぼくの過去から現在にわたって
まとわりつく後悔
涙に濡れた闇のように
いまや疲労と化して
身体に溜まり
朝から晩まで
忍従するしかなく
怨むことさえない
生気を失った心で
空を見上げるぼくの眼を
なぐさめてくれる
ああ
なぐさめてくれる
木陰です。
ここに
泰子の影を読む人もいます。
*
木蔭
神社の鳥居が光をうけて
楡(にれ)の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木蔭は
私の後悔を宥(なだ)めてくれる
暗い後悔 いつでも附纏ふ後悔
馬鹿々々しい破笑にみちた私の過去は
やがて涙つぽい晦暝(くわいめい)となり
やがて根強い疲労となつた
かくて今では朝から夜まで
忍従することのほかに生活を持たない
怨みもなく喪心したやうに
空を見上げる私の眼(まなこ)――
神社の鳥居が光をうけて
楡の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木蔭は
私の後悔を宥めてくれる
*破笑 思わず笑うこと。
*晦暝 暗闇。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)
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