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2008年7月 3日 (木)

悲しき朝/知れざる炎

20080104_252h

いくつもの巨岩が山をなし
岩と岩との間を流れ落ちてくる滝があります。
水しぶきを浴びながら見上げると
彼方には木々がのぞき
そのまた彼方にはコバルトブルーの空……。

ひっきりなしに聞こえてくるせせらぎの音
春先の陽光はキーンと固く
岩の間を流れ落ちる滝は
まるで老女の白髪……。

ぼくは歌った
雲母みたいに薄っぺらに

心の中は涸れていて、皺枯れていて
岩の上で綱渡りしているようだった

でも、だれも知らないだろう! 
ぼくの中の炎、
情熱は空に向かって行ったのさ。

河瀬の音が雨の音になっていよいよ高まって、
ああ心の中までビショビショしてきた!

…………

とにもかくにも
ぼくは手をはたいて……
この手に負えない悲しみに
……折れ合おうと
……したのです
……

 ◇中也の弟中原思郎が、この詩の舞台を、中也の故郷山口・泰雲寺の鳴滝として以後、多くの人がそうみなすようになったようです。

 *

 悲しき朝

河瀬の音が山に来る、
春の光は、石のやうだ。
筧(かけひ)の水は、物語る
白髪(しらが)の嫗(をうな)にさも肖(に)てる。

雲母の口して歌つたよ、
背(うし)ろに倒れ、歌つたよ、
心は涸(か)れて皺枯(しわが)れて、
巌(いはほ)の上の、綱渡り。

知れざる炎、空にゆき!

響の雨は、濡れ冠る!

・・・・・・・・・・・

われかにかくに手を拍く……

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