秋の夜空/遠いお祭り
6行3連
各連第5行を3字下げとする
めずらしいフォームです。
字下げの行は下界
以外は天界
いずれも秋の夜が歌われています。
賑わしく
てんでに語り合い
よそよそしい雅を漂わせる
奥様たち
下界の秋は
寂しい秋だというのに
磨かれたフロア
星々は輝き
椅子の一つも置いていない
明るさ
下界の秋は
寂しい秋だというのに
ほんのりと電灯をともし
昔の陰祭りのように
静かな賑わい
私は下界で見ているだけだったが……
いつの間にか
天界に入り込み
いつの間にか
退場していました。
字義通りに読める作品ですが
やはり
第1連
それでもつれぬみやびさよ。
第2連
椅子は一つもないのです。
第3連最終行
知らないあひだに退散した。
この3行に
詩人の孤独、隔絶感、疎外感覚は
あります。
平明平凡に見える詩ながら
影祭りは遠く(距離)
遠い日(時間)のことでした
と、読んでいくと
やはり
非凡さが立ち現れてきます。
秋の夜空は遠く
秋の夜空は遠い昔の影祭り……。
なのです。
*
秋の夜空
これはまあ、おにぎはしい、
みんなてんでなことをいふ
それでもつれぬみやびさよ
いづれ揃つて夫人たち。
下界は秋の夜といふに
上天界のにぎはしさ。
すべすべしてゐる床(ゆか)の上、
金のカンテラ点(つ)いてゐる。
小さな頭、長い裳裾(すそ)、
椅子は一つもないのです。
下界は秋の夜といふに
上天界のあかるさよ。
ほんのりあかるい上天界
遐(とほ)き昔の影祭、
しづかなしづかな賑はしさ
上天界の夜(よる)の宴。
私は下界で見てゐたが、
知らないあひだに退散した。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)
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