二人だけの時/わが喫煙
これ以上
何を望んだのだろうか
何を求めたのだろうか
中原中也と長谷川泰子の
二人だけの時間が
これも14行に
濃密に刻まれました。
二人の距離は
もやは、ない、
と言えるほどに
近しい
港町、横浜あたりへのデート。
幾分か、
誇らしげでもある
詩人の心根が見える気がします。
こんな時もあったのだ。
にも拘わらず
自分の女ではない
自分の伴侶ではない
いや、そういうことではありません
自分の気持ちには応えていない女
一緒に、デートを楽しんでいるけれど
自分を心底で好いてくれてはいない女が
憎い……
*
わが喫煙
おまへのその、白い二本の脛(あし)が、
夕暮、港の町の寒い夕暮、
によきによきと、ペエヴの上を歩むのだ。
店々に灯がついて、灯がついて、
私がそれをみながら歩いてゐると、
おまへが声をかけるのだ、
どつかにはひつて憩(やす)みませうよと。
そこで私は、橋や荷足(にたり)を見残しながら、
レストオランに這入(はひ)るのだ――
わんわんいふ喧騒(どよもし)、むつとするスチーム、
さても此処(ここ)は別世界。
そこで私は、時宜にも合はないおまへの陽気な顔を眺め、
かなしく煙草を吹かすのだ、
一服、一服、吹かすのだ……
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)
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