汚れつちまつた悲しみに…3
中也の全作品中、最も広く知られた詩。
文語の七五調で作られた詩句が
口に乗りやすく
繰り返して諳(そら)んじていると
詩世界に入り込み
悲しみが乗り移ってくる
4連16行の
第1、第4連の第1、第3行には
汚れつちまつた悲しみに
第2、3連の第1、第3行には
汚れつちまつた悲しみは
が、1行おきにリフレインされ
16行の半分8行を
汚れつちまつた悲しみ、が
占拠しています
悲しみを感じている人
感じたことのある人
人はみな悲しみを知るのであれば
この詩に親しむ理由はあります
悲しみに汚れた私、なのか
悲しみが汚れている、のか
二分法で迫ってはいけません
二義的、多義的に書かれている詩句を
二者択一に絞る必要がありません
どちらの意味もあり
その他の意味すらあるかもしれない詩句を
そのまま味わっているほうが
詩の中に入っていけるというものでしょう
同じく、
この悲しみは
長谷川泰子の悲しみを歌ったものであり
詩人自身の悲しみでもある、と
捉えた方が
深く味わえるというものでしょうから
主格を
特定しなくてもいいのではないでしょうか
多くの人々が知るようになり
作品はすでに
公共性のレベルに入ってもいますし……
雪が
初めて、ここに
登場しました。
冷たくて
柔らかい
雪
失われた恋でありながら
小雪の柔らかさが
かすかに残っているような……
*
汚れつちまつた悲しみに……
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気(おぢけ)づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)
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