カテゴリー

2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 秋日狂乱/無一物の詩人 | トップページ | 朝鮮女/街の出会い »

2008年9月13日 (土)

秋の日/無形の筏(いかだ)

文語調で
ややとっつきにくい作品ですが
何度も読んでいるうちに
やはり、すごいところのある詩だ、と
思えてくる。

 

はじめは
詩の形にを注目せざるを得ないので
そうするのですが
だんだん、この詩の、思想性というようなものに
気付きます。

 

形は、明治・大正期の詩人・岩野泡鳴の手法を
真似たものとか。

 

3字で区切り、1字分の空白を置き、
次に4字で区切り、1字分の空白を置き、
3-4(4-3)×2の14字で改行し、
14字1行の4行を1連とし
4行、4行、3行、3行の4連
つまり、4-4-3-3のソネットとし

 

さらに
1、2、3連の奇数行の第一字を字下げしています。

 

字の数の遊び
数によるリズム感
音数律
詩の形へのこだわり
この作品には、これらがあるのは確かです。

 

形のこだわりの上に
文語です。
その中に、内容の重さが忍び込んでいることも
わすれてはなりません。

 

4連に
連れだつ友の、とあり
友と歩いていることがわかります

 

河原の土手道でしょうか
並木の道です
「女の瞼」
「空の潤み」
「馬の蹄」
これは、回想か、幻想か

 

第2連の国道は
1連の河原と同じ道なのでしょうか
ぽっくりは、1連の女が履いているものに違いない

 

第3連に、山はあります。
流れを、無形の筏が通る、のです。
1連の河原の
半分に陽が射し
半分は陰になっていて
おそらく、陰になった河原を
無形の筏が、ゆっくりと、通っていくのです。

 

筏そのものでさえ
なんの装備もない
舟ですらない
木で組んだだけの乗り物です
無形、とは、何にもない
無一物の、という、
詩人の姿でありましょう。

 

連れの友が冗談を言い
道化て見せるのも
この旅に不釣合いではなく
秋は
唇をきっぱり結んで
思慮深く、息づいているよ

 

詩人の宣言は
いくつかありますが
この詩にも
その宣言があります。

 


 秋の日

 

 磧(かはら)づたひの 竝樹(なみき)の 蔭に
秋は 美し 女の 瞼(まぶた)
 泣きも いでなん 空の 潤(うる)み
昔の 馬の 蹄(ひづめ)の 音よ

 

 長の 年月 疲れの ために
国道 いゆけば 秋は 身に沁む
 なんでも ないてば なんでも ないに
木履(ぼくり)の 音さへ 身に沁みる

 

 陽は今 磧の 半分に 射し
流れを 無形(むぎやう)の 筏(いかだ)は とほる
 野原は 向ふで 伏せつて ゐるが 

 

連れだつ 友の お道化(どけ)た 調子も
 不思議に 空気に 溶け 込んで
秋は 案じる くちびる 結んで

 

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
 *原文のルビは、( )内に表記しました。

 

 

« 秋日狂乱/無一物の詩人 | トップページ | 朝鮮女/街の出会い »

0001はじめての中原中也」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 秋の日/無形の筏(いかだ):

« 秋日狂乱/無一物の詩人 | トップページ | 朝鮮女/街の出会い »