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2008年9月14日 (日)

朝鮮女/街の出会い

社会に孤絶した魂が
同じ孤絶した魂に遭遇するとき
いきなりは
しっくり相会うことはなく
互いを怪訝な面持ちで見やり
すれ違って通り過ぎることは
よくあることのようですが……。

 

昭和10年(1935)4月頃の作と
「中原中也必携」(吉田熈生編)が推定する
「朝鮮女」。

 

「骨」「秋日狂乱」の次の
25番目に置かれています。

 

東京の、どこかの街で
子連れの朝鮮人女性とすれ違う詩人は
その子ども、おそらくは、物心のつきはじめた
今でいう中学生の年頃の女の子の手を
引っ張る感じで、無理に引く
額を顰めた女
日焼けして赤銅色の顔の女に
目を見はっているのです。

 

服の紐
秋の風にや縒(よ)れたらん

 

着ている民族の服の紐が
吹かれて縒れているのは秋の風に吹かれためか。

 

何を思っているだろう
わたしが思うことと
同じようなことを思っているだろうか
いや、わたしの思うこととは
まるで別のことを思っている、のか。

 

――まことやわれもうらぶれし
ほんとうにうらぶれているのは
わたしの方もなので……

 

どれほどの時間だったろうか
心の中でのことだけれど
遠慮もしないで
まじまじ見ていたわたしを訝り
子どもを追い立てるようにうながしては
去っていった

 

すると、ちょうど、その時
小さな風とともに
少しの埃がたったのです

 

まるで
何かを思え、とでもいわんばかりに。

 

いったい
何を、これ以上、思えばいいのか。
わたしが思うことに
何の変わりはない。

 

孤絶した魂は
すれ違ったままではなく
……
……
……

 

詩人は
朝鮮女に出会った、のです。

 

 

 

 *
 朝鮮女

 

朝鮮女(をんな)の服の紐
秋の風にや縒(よ)れたらん
街道を往くをりをりは
子供の手をば無理に引き
額顰(しか)めし汝(な)が面(おも)ぞ
肌赤銅の乾物(ひもの)にて
なにを思へるその顔ぞ
――まことやわれもうらぶれし
こころに呆(ほう)け見ゐたりけむ
われを打見ていぶかりて
子供うながし去りゆけり……
軽く立ちたる埃(ほこり)かも
何をかわれに思へとや
軽く立ちたる埃かも
何をかわれに思へとや……
・・・・・・・・・・・

 

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
 *原文のルビは、( )内に表記しました。

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