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2008年9月21日 (日)

お道化うた/朗読するダミ声

20080912_086

 

 

 

「秋」を糸口に
詩集「在りし日の歌」を読んでいることに
特別の意図があるわけではありませんが、
それほどナンセンスな読み方でもないかな
と、思ったりするのは
いま、季節は、秋だからです。

 

「秋」という字が
詩の中に登場するからといって
その詩が、秋という季節を歌ったものでは
必ずしもありませんが
これまで読んできた詩は
秋である今ごろに読んでよかった、と
思える詩が多かったようです。

 

33番の「お道化うた」は
たびたび作品の中に現れるピエロと異なり
ピエロ=お道化が歌う歌、と
タイトルをつけ
詩人が、その歌を歌っている
当のピエロになっています。

 

ここにも秋の文字が登場します
第2連冒頭行
霧の降つたる秋の夜に、

 

ほかにも
第3連第4行
虫、草叢(くさむら)にすだく頃、
第4連第3行
今宵星降る東京の夜(よる)、
は、秋を匂わせます。

 

ベートーベンの「月光の曲」にまつわる
盲目の少女との物語を題材に
詩人はお道化てみせるのですが
星が降り、月の光さす、東京の夜、といえば
秋しかないような
やや出来すぎの設定です。

 

「歴程」第2次創刊号(昭和11年3月)に初出。
昭和9年(1934)6月、中也27歳の制作。
前年1933年に結婚した中也は
同人雑誌、総合雑誌などに
精力的に作品を発表、
第一詩集「山羊の歌」を年末に刊行しています。

 

佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」(角川文庫クラシックス)の
年譜の1934年の項目に、
「12月、高村光太郎の装幀で『山羊の歌』刊行。この頃、草野心平ら「歴程」同人の催した朗読会で「サーカス」を朗読。」
などと、あります。

 

大岡昇平も
中也が自作を朗読する場面を記していますが
ここでは「歴程」同人会での
「サーカス」の朗読です。

 

中也が、
迎角45度前方の
虚空を見据え
だみ声で
ゆあーん ゆよーん、と
朗読していた姿が
彷彿としてきますが……。

 

「お道化うた」だったか
今や、記憶の中にはっきりとはしないのだけれど
「あれだったとしても決しておかしくはない」と
中也の朗読を聴いた思い出を 
記すのは、評論家・吉田秀和です。
(朝日新聞2008年3月20日「音楽展望」)

 

「七五調のあのうた、中原は気持ちよさそうに、独特のダミ声でサービスしてくれた。」と
吉田秀和は続けます。
そして、
「お道化うた」の第1連を引いて、
この、珠玉のようなエッセイを
結んでいるのです。

 

朗読されたのが、
「お道化うた」であったというのが
驚きの一つですが、
その朗読がダミ声だった、
というのも驚きでしたし、
新鮮でした。

 

中也はだみ声だった! 
という話は
ここから広まったようです。

 

 *
 お道化うた

 

月の光のそのことを、
盲目少女(めくらむすめ)に教へたは、
ベートーヹンか、シューバート?
俺の記憶の錯覚が、
今夜とちれてゐるけれど、
ベトちやんだとは思ふけど、
シュバちやんではなかつたらうか?

 

霧の降つたる秋の夜に、
庭・石段に腰掛けて、
月の光を浴びながら、
二人、黙つてゐたけれど、
やがてピアノの部屋に入り、
泣かんばかりに弾き出した、
あれは、シュバちやんではなかつたらうか?

 

かすむ街の灯とほに見て、
ウヰンの市(まち)の郊外に、
星も降るよなその夜さ一と夜、
虫、草叢(くさむら)にすだく頃、
教師の息子の十三番目、
頸の短いあの男、
盲目少女(めくらむすめ)の手をとるやうに、
ピアノの上に勢ひ込んだ、
汗の出さうなその額、
安物くさいその眼鏡、
丸い背中もいぢらしく
吐き出すやうに弾いたのは、
あれは、シュバちやんではなかつたらうか?

 

シュバちやんかベトちやんか、
そんなこと、いざ知らね、
今宵星降る東京の夜(よる)、
ビールのコップを傾けて、
月の光を見てあれば、
ベトちやんもシュバちやんも、はやとほに死に、
はやとほに死んだことさへ、
誰知らうことわりもない……

 

*とちれて 山口方言で、とっさの判断がつかない様子をいう。「とちる」の意味を含むか。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)

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