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2008年10月 1日 (水)

老いたる者をして3/23歳の孤独

 「白痴群」の廃刊による
 交友関係の崩壊。
 小林秀雄との冷たい関係は復旧されておらず
 大岡昇平ら、「白痴群」同人のほとんどが、
 一時的ではあれ、中也に距離をおき、
 中也は一人、東京という異郷に投げ出された
 という状況。
 これが、昭和5年(1930年)後半、
 中也23歳です。
 
 長谷川泰子が
 この年末、出産したことも
 中也の孤独をいやましにしたはずです。
 泰子の子に、茂樹という名を付けるなど
 この子を可愛がる中也ですが
 そのことと
 詩人の孤独とは別物であります。
 
 幾人か、中也を労わりつづける友人もいました。
 安原喜弘、関口隆克……
 
 新しい友人もできました。
 吉田秀和、高森文夫……
 
 「スルヤ」は音楽集団ですから
 文学の戦場とは異なり
 中也の主戦場ではありません。
 決別自体がありませんから
 その後も、ゆるやかな関係が続きました。
 
 「老いたる者をして」は
 空しき秋二十数篇は散佚して今はなし。その第十二のみ、諸井三郎の作曲によりて残りしものなり。
 
 と、詩の末尾に注釈が詩人により加えられているとおり
 詩の一部です。
 全体は、20数篇だった、とか
 共同生活していた関口隆克が言うには
 16篇あった、とか
 様々な説が飛び交っています。
 その12番。
 
 老いたる者とは詩人のことか。
 老人という意味であるより
 軽薄であることの反意か……。
 
 その人を静かな環境においてあげてください
 静かにしてやってください
 その人を心ゆくまで悔いさせてあげるのです
 
 わたしも悔いることを望みます
 心ゆくまで悔いて本当に魂を休めたいのです
 
 果てしなく泣きたい
 父母兄弟友人……そばで見ている人のことなどすっかり忘れて
 泣きたい
 
 東雲の空、夕方の風のように
 小旗がはたはたたなびくように泣こう
 
 別れの言葉が、こだまして、雲の中に消えてゆき、
 野末に響き、海の上の風に混ざって、永遠に過ぎ去っていくように……
 
ああ以下の反歌が、
詩の要です
 
私たちは、長い間、臆病で意気地がないために
無駄なことばかりしてきて
泣くことを忘れてきたのだ
ああ
ほんとに大事なことを忘れてきたのだ

「涕く」は、涕泣(ていきゅう)の「涕」。
「泣く」と同じです。

泣くことが、大事だと
大事なことをしてこなかった
忘れてしまった、と
悔いているのですが……、

泣くこととは、
静かにして感じること、
とかの意味が込められているのでしょう。
涙を流して、泣いていればいいといものでもありません。

ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。

の、「感じる」に近い「涕く」に違いありません。

これらの詩句に
どんなメロディーがついたのか
いつか聴いてみたいものです。
 
 
 *
 老いたる者をして

 

  ――「空しき秋」第十二

 

老いたる者をして静謐(せいひつ)の裡(うち)にあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり

 

吾は悔いんことを欲す
こころゆくまで悔ゆるは洵(まこと)に魂を休むればなり

 

あゝ はてしもなく涕(な)かんことこそ望ましけれ
父も母も兄弟(はらから)も友も、はた見知らざる人々をも忘れて

 

東明(しののめ)の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな

 

或(ある)はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上(へ)の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

 

   反歌

 

あゝ 吾等怯懦(けふだ)のために長き間、いとも長き間
徒(あだ)なることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりしよ……

 

〔空しき秋二十数篇は散佚して今はなし。その第十二のみ、諸井三郎の作曲によりて残りしものなり。〕

 

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
*原作第5連第2行「はたなびく」に傍点があります。(編者)

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