早春の風・その2/青き女
青き女(をみな)の顎(あぎと)かと
岡に梢のとげとげし
今日一日また金の風……
この詩句は、いかに読んだらよいのでしょうか?
1日考えて、
少女のあごかと思えるような、
早春の山野の樹木は、
まだ新芽もふくらんでおらず、
枯れ枝ばかりでとげとげしく立っていて、
そこにも光をまぶしたような
金色の風が吹いている
と、解釈してみました。
すると、第4、5連も、
すっきりと読めてきます。
枯草の音のかなしくて
煙は空に身をすさび
日影たのしく身を嫋(なよ)ぶ
立ち枯れした草を撫でつける風の音は悲しく
雲は空にちぎれちぎれに飛んでいき
木と木の間の陰を楽しそうに通りぬける
鳶色(とびいろ)の土かをるれば
物干竿は空に往き
登る坂道なごめども
鳶の色をした土が香ばしい空気を漂わせ
民家の物干し竿も空高く浮かんでいる
ぼくが登っていく坂道は穏やかでも……
山のてっぺんの、樹と樹とのすき間をとおして雲の流れてゆくのがみえます。
(煙は空に身を慌(すさ)び、日陰怡しく身を嫋ぶ)昔の歌。
と、中原中也が記した
第4連を読み直し、
素直にヒントにすれば、
それほどピントはずれでもなさそうな
解釈ができます。
それにしても
青き女(をみな)の謎は
消えないのです。
成熟した女性のイメージではなく
ただの少女を
中也は「青き女」としたのでしょうか。
故郷の山河を愛した詩人の
自然賛歌であることに
なんら不服ではないものの
ここは気にかかったままです。
*
早春の風
けふ一日(ひとひ)また金の風
大きい風には銀の鈴
けふ一日また金の風
女王の冠さながらに
卓(たく)の前には腰を掛け
かびろき窓にむかひます
外吹く風は金の風
大きい風には銀の鈴
けふ一日また金の風
枯草の音のかなしくて
煙は空に身をすさび
日影たのしく身を嫋(なよ)ぶ
鳶色(とびいろ)の土かをるれば
物干竿は空に往き
登る坂道なごめども
青き女(をみな)の顎(あぎと)かと
岡に梢のとげとげし
今日一日また金の風……
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
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