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2008年10月26日 (日)

六月の雨/懸賞応募作品

「在りし日の歌」8番目の歌は、
「六月の雨」。
昭和11年、1936年
「文学界」6月号に載った作品で、
同誌の懸賞応募作でもあり、
受賞を逃した作品として知られています。

 

中也の口惜しがりぶりが見えるようです。
この時の受賞作は、
岡本かの子の「鶴は病みき」でした。

 

応募作だけあって、というと、
他の作品が、そうでない、
というわけではありませんが、
佳い作品です。
素晴らしい作品です。

 

制作は、昭和11年4月と推定され、
この時、長男の文也は1歳半、
眼に入れても痛くはない可愛さ盛りです。

 

日曜日である、ある日の朝は、雨でした。
窓辺に立つ詩人は、
緑あざやかな菖蒲の葉に
いっそう映えた濃紺の花びらが
雨に打たれている光景をじっと眺めています。
すると、
潤(うる)んだ瞳の
面長(おもなが)の貌(かお)の女が、
雨の中に現れては消えていきました。

 

現れては消えていくと
私の心は憂いに沈み、しとしとと
雨は、畑の上に、落ちています
いつ止む気配もみせず落ちています。

 

この、1連から2連への
絶妙なつながり!

 

しかも、2連では、
心が憂いに沈んでいる状態が
しとしとと、雨の降る様子と重ねあわされ
雨の情景へといつの間にか移動します。

 

そして、3、4連への
場面転換……

 

お太鼓たたいて
笛吹いて
文也とおぼしき子ども
それはまた、
詩人の幼きころの姿に重なります
畳の上で遊んでいるのです

 

外は、ピチピチ チャプチャプ
6月の雨は降り止みません

 

面長き女は、
ここでも、長谷川泰子でしょうか。
泰子は、こういうシーンに似合います。

 

お得意の4-4-3-3のソネット
流麗感のある七五調
色彩豊かなイメージ
リズム、リズム!
……
名品です。

 

 *
 六月の雨

 

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲(しやうぶ)のいろの みどりいろ
眼(まなこ)うるめる 面長き女(ひと)
たちあらはれて 消えてゆく

 

たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠(はたけ)の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる

 

       お太鼓(たいこ)叩いて 笛吹いて
       あどけない子が 日曜日
       畳の上で 遊びます

 

       お太鼓叩いて 笛吹いて
       遊んでゐれば 雨が降る
       櫺子(れんじ)の外に 雨が降る

 

* 櫺子 窓や戸に、木や竹の細い間隔で縦または横に並べたもの。

 

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)
 *原文のルビは、( )内に表記しました。

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