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2008年11月 6日 (木)

春の日の歌/空の思想

11番目「春の日の歌」は、
昭和11年(1936)の「文学界」5月号に
発表されました。
制作は、その2か月前と推定されています。
中原中也29歳。

 

流れ、ながれ、とは何か
嬌羞、きょうしゅう、とは……。
心と、どう異なり、どうつながるのか。

 

空とは、空の国とは、
空のうえ、とは……。

 

中也ならではの語彙に満ち
思想の盛られた詩。
宗教性という人もいます。
単に自然を歌った、という
作品ではありません。

 

例によって
4-4-3-3のソネット
七五調。
流麗であり、
文語まじりの口語体が
荘重感を生み出します。

 

その中に、
うわあ うわあと 涕(な)くなるか
という激情。
少年時代のギロギロの眼(まなこ)に
これは、つながっていくものか。

 

納屋、白い倉、水車……と、
ながれは、たどりにたどり、
故郷の景色へと結んでいきます。

 

空には、
詩人独特の天の意味が込められ、
死の響きも少し感じられますが、
全体がなまめかしさを漂わせるのは
嬌羞の一語があるからでしょうか。

 

 * 
  春の日の歌

 

流(ながれ)よ、淡(あは)き 嬌羞(けうしう)よ、
ながれて ゆくか 空の国?
心も とほく 散らかりて、
ヱヂプト煙草 たちまよふ。

 

流よ、冷たき 憂ひ秘め、
ながれて ゆくか 麓までも?
まだみぬ 顔の 不可思議の
咽喉(のんど)の みえる あたりまで……

 

午睡の 夢の ふくよかに、
野原の 空の 空のうへ?
うわあ うわあと 涕(な)くなるか

 

黄色い 納屋や、白の倉、
水車の みえる 彼方(かなた)まで、
ながれ ながれて ゆくなるか?

 

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)
 *原文のルビは、( )内に表記しました。

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