長男文也の死をめぐって/月の光2
「月の光」は、
「その一」「その二」とを
独立した作品としていますが、
内容は、連続していて、
二つに分けた
中也の意図がみえません。
その一の「お庭」「草叢」
その二の「庭」「芝生」「森」……
これらは、みんな、あの世のものでしょう。
あの世の「庭」の「草叢」に
死んだ子供が「隠れている」
まだ、あの世にも慣れていないのでしょうか。
死んだばかりの子どもは控え目です。
そこへ
チルシスとアマントが「出て来てる」。
どこからか「出て来てる」のが、
あの世的な感じがします。
その、どこかが、不気味です。
持ってきたギターは放り出されたまま……
この、無音の情景! 沈黙の世界!
チルシスとアマントも
こそこそと
話しているのです。
その間、
森の中では死んだ子が
蛍のやうに
蹲んでいるのです。
*
月の光 その一
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
お庭の隅の草叢(くさむら)に
隠れてゐるのは死んだ児だ
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
おや、チルシスとアマントが
芝生の上に出て来てる
ギタアを持つては来てゐるが
おつぽり出してあるばかり
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
*
月の光 その二
おゝチルシスとアマントが
庭に出て来て遊んでる
ほんに今夜は春の宵(よひ)
なまあつたかい靄(もや)もある
月の光に照らされて
庭のベンチの上にゐる
ギタアがそばにはあるけれど
いつかう弾き出しさうもない
芝生のむかふは森でして
とても黒々してゐます
おゝチルシスとアマントが
こそこそ話してゐる間
森の中では死んだ子が
蛍のやうに蹲(しやが)んでる
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
« 長男文也の死をめぐって/月の光 | トップページ | 加藤周一/中也の同時代人 »
「0021はじめての中原中也/長男文也の死と詩人の死」カテゴリの記事
- 長男文也の死をめぐって/中原中也の死(2008.12.18)
- 長男文也の死をめぐって/草稿詩篇1937年(2008.12.18)
- 長男文也の死をめぐって/暗い公園(2008.12.17)
- 長男文也の死をめぐって/月の光2(2008.12.11)
- 長男文也の死をめぐって/月の光(2008.12.11)
コメント