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2008年12月11日 (木)

長男文也の死をめぐって/月の光2

「月の光」は、
「その一」「その二」とを
独立した作品としていますが、
内容は、連続していて、
二つに分けた
中也の意図がみえません。

 

その一の「お庭」「草叢」
その二の「庭」「芝生」「森」……
これらは、みんな、あの世のものでしょう。

 

あの世の「庭」の「草叢」に
死んだ子供が「隠れている」
まだ、あの世にも慣れていないのでしょうか。
死んだばかりの子どもは控え目です。

 

そこへ
チルシスとアマントが「出て来てる」。
どこからか「出て来てる」のが、
あの世的な感じがします。
その、どこかが、不気味です。

 

持ってきたギターは放り出されたまま……
この、無音の情景! 沈黙の世界!
チルシスとアマントも
こそこそと
話しているのです。

 

その間、
森の中では死んだ子が
蛍のやうに
蹲んでいるのです。

 

 *
 月の光 その一

 

月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた

 

  お庭の隅の草叢(くさむら)に
  隠れてゐるのは死んだ児だ

 

月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた

 

  おや、チルシスとアマントが
  芝生の上に出て来てる

 

ギタアを持つては来てゐるが
おつぽり出してあるばかり

 

  月の光が照つてゐた
  月の光が照つてゐた

 

 *
 月の光 その二

 

おゝチルシスとアマントが
庭に出て来て遊んでる

 

ほんに今夜は春の宵(よひ)
なまあつたかい靄(もや)もある

 

月の光に照らされて
庭のベンチの上にゐる

 

ギタアがそばにはあるけれど
いつかう弾き出しさうもない

 

芝生のむかふは森でして
とても黒々してゐます

 

おゝチルシスとアマントが
こそこそ話してゐる間

 

森の中では死んだ子が
蛍のやうに蹲(しやが)んでる

 

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)

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