長男文也の死をめぐって/月の光
詩集「在りし日の歌」の章「永訣の秋」の16篇の、
発表メディア、制作年を見ておきます。
ゆきてかへらぬ—京都— 四季、昭和11年11月号
11年9月?
一つのメルヘン 文芸汎論、昭和11年11月号
11年9月?
幻影 文学界、昭和11年11月号
11年9月?
あばずれ女の亭主が歌つた 歴程、昭和11年11月号
11年9月号
言葉なき歌 文学界、昭和11年12月号
11年10月?
月夜の浜辺 新女苑、昭和12年2月号
11年12月?
また来ん春…… 文学界、昭和12年2月号
11年11月中旬~12月下旬?
月の光 その一 文学界、昭和12年2月号
11年11月中旬~12月下旬?
月の光 その二 文学界、昭和12年2月号
11年11月中旬~12月下旬?
村の時計 四季、昭和12年3月号
8年10月10日
或る男の肖像 四季、昭和12年3月号
8年10月10日
冬の長門峡 文学界、昭和12年4月号
11年12月24日
米子 ペン、昭和11年12月
11年10月中旬?
正午 丸ビル風景 文学界、昭和12年10月号
12年8月?
春日狂想 文学界、昭和12年5月号
12年3月
蛙声 四季、昭和12年7月号
12年5月14日
* 「中原中也必携」調べ、吉田煕生編、学燈社、1979年
* ?のあるものは、推定を意味します。
それぞれが雑誌などに発表されましたが、
そのうち、
文也の死んだ昭和12年11月10日より後に
作られたものが、
追悼詩の可能性がありますが、
追悼詩ではないものも、当然、あります。
文也の死以前に制作されたものを除くと、
追悼詩であろうと推定されるのが、以下、
「月夜の浜辺」
「また来ん春……」
「月の光 その一」
「月の光 その二」
「冬の長門峡」
「春日狂想」
「蛙声」
の、7篇に絞られます。
この他に、詩集に載らなかった
未発表詩篇にも、
いくつかの追悼詩はあります。
(この稿、つづく)
*
月の光 その一
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
お庭の隅の草叢(くさむら)に
隠れてゐるのは死んだ児だ
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
おや、チルシスとアマントが
芝生の上に出て来てる
ギタアを持つては来てゐるが
おつぽり出してあるばかり
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
*
月の光 その二
おゝチルシスとアマントが
庭に出て来て遊んでる
ほんに今夜は春の宵(よひ)
なまあつたかい靄(もや)もある
月の光に照らされて
庭のベンチの上にゐる
ギタアがそばにはあるけれど
いつかう弾き出しさうもない
芝生のむかふは森でして
とても黒々してゐます
おゝチルシスとアマントが
こそこそ話してゐる間
森の中では死んだ子が
蛍のやうに蹲(しやが)んでる
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
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