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2008年12月26日 (金)

春の日の夕暮/山羊の歌・再読


春の日の夕暮

トタンがセンベイ食べて
春の日の夕暮は穏かです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は静かです

吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか——あるまい
馬嘶(いなな)くか——嘶きもしまい
ただただ月の光のヌメランとするまゝに
従順なのは 春の日の夕暮か

ポトホトと野の中に伽藍(がらん)は紅く
荷馬車の車輪 油を失ひ
私が歴史的現在に物を云へば
嘲る嘲る 空と山とが

瓦が一枚 はぐれました
これから春の日の夕暮は
無言ながら 前進します
自(みづか)らの 静脈管の中へです

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)


日没のいめーじ。
トタン屋根の密集する町。
電柱電線など、雑多な風景がシルエットになっている。
その風景のバックに巨大なまん丸の太陽。
まさに、トタンがセンベイを食べている光景です。
春の夕暮れは、穏やかです。

アンダースローされた灰とは、
太陽の向こうか周辺か、
靄とか煙みたいなもの(灰)が
青黒く(青白く)、
ただよっている。
静かな感じです。

そんなに穏やかで静かな春の夕暮れならばさあ
案山子はいるかい?
いやしまい。いないだろ。
そんじゃ、馬は嘶いているかい?
嘶いていやしないだろーよ。
ただ、東の空の月の光だけが、
ヌメッとして従順な
春の夕暮れなのです

ホトホトって感じで
伽藍のような、広い野原は
夕日で真っ赤に染まっているよ。
そこを、荷馬車がギシギシと、
油ぎれした車輪の音を立てて
通っていくよ

ぼくが、
歴史的現在、というのは、政治や世の中のことなのだが、
それについて発言すれば、
バカにされるは、バカにされるは!
てんで、相手になってくれない。

おーっと、瓦が1枚、
向こうの屋根からはがれました
これからです。
これから、静かに静かに、
春の夕暮れが進みます。
頂点をむかえます。
全部、ぼくの、
静脈の中へ入っていきます。

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