春の歌を拾う<3-3> 雲雀
「春と赤ン坊」は27番目
「雲雀」は28番目。
「在りし日の歌」のほぼ真ん中に
この2作は、続けて置かれています。
そして、この2作は、
ほとんど、同じ情景を歌っています。
小林秀雄に
「最近、詩が上手くなったね」と言われ、
憤慨した詩人が思われますが、
この2作が、「文学界」に掲載されたこととの関連は、
分かりません。
そんなことどもに関係なく、
いい詩です。
単純なようで
深みがあります。
分かりそうで
分からない、
作品というものの謎が
ここにはありまして、
心に残ります。
一日中、空で鳴っているのは
あれは、電線ですよ、電線ですよ。
一日中、空で鳴いているのは、
あれは、雲の子です、雲雀です。
青い青い空の中に、
入り込んじゃって、
空の中に潜り込んじゃって
ピーチクピーチク鳴いているのは
雲雀、雲の子だよ。
ほれ、歩いてゆくのは、
菜の花畑だよ
向こうの地平の方に、歩いてゆくのは
あの山、この山だよ
青い青い空の下
眠っているのは
菜の花畑で眠っているのは
風に吹かれて菜の花畑で
眠っているのは
赤ん坊かな?
この?
なんだか挑発的な感じがしませんか?
赤ん坊じゃないです、
とは、言わせないような
感じがあります。
*
雲 雀
ひねもす空で鳴りますは
あゝ 電線だ、電線だ
ひねもす空で啼きますは
あゝ 雲の子だ、雲雀奴(ひばりめ)だ
碧(あーを)い 碧(あーを)い空の中
ぐるぐるぐると 潜(もぐ)りこみ
ピーチクチクと啼きますは
あゝ 雲の子だ、雲雀奴だ
歩いてゆくのは菜の花畑
地平の方へ、地平の方へ
歩いてゆくのはあの山この山
あーをい あーをい空の下
眠つてゐるのは、菜の花畑に
菜の花畑に、眠つてゐるのは
菜の花畑で風に吹かれて
眠つてゐるのは赤ン坊だ?
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)
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