春の歌を拾う<5-1>春宵感懐
中原中也の第2詩集「在りし日の歌」の
全作品が、
知られているようで、
案外知られていないようなのですが、
生前、どこかの詩誌、雑誌、新聞などに
発表されたものです。
昭和11年、1936年は、
中也の死ぬ1年前ですが
この年、かなり精力的に
あちこちへ寄稿していることが
わかります。
「在りし日の歌」中の作品で
同年7月号に発表されたものに
「わが半生」(四季)
「春宵感懐」(文学界)
「曇天」(改造)の3作があります。
「文学界」発表作品が
ここにもあります。
「春の歌を拾う」にピックアップした
12篇のうち、8篇が
「文学界」出品作ということになります。
そもそも、
小林秀雄が編集者の位置にいる
「文学界」への出品が
他誌(紙)にまさるのは
必然的ですが、
「春の歌」の高比率は驚きです。
「春の歌を拾う」の流れで読んできた者が、
「文学界」発表作品がここにもあることを見つけては、
偶然ではないような感じもしますが
それを考究するつもりはありません。
「春の歌」に
特別な意味を見出そうとするつもりはなく
便宜的に、そのくくりで読んできただけですから、
傾向分析その他の意味付与は
無意味ですし、無謀です。
「春宵感懐」は
第2連の、溜息、幻想が、
キーワードでしょうか……。
(つづく)
*
春宵感懐
雨が、あがつて、風が吹く。
雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵(よひ)。
なまあつたかい、風が吹く。
なんだか、深い、溜息が、
なんだかはるかな、幻想が、
湧くけど、それは、掴(つか)めない。
誰にも、それは、語れない。
誰にも、それは、語れない
ことだけれども、それこそが、
いのちだらうぢやないですか、
けれども、それは、示(あ)かせない……
かくて、人間、ひとりびとり、
こころで感じて、顔見合せれば
につこり笑ふといふほどの
ことして、一生、過ぎるんですねえ
雨が、あがつて、風が吹く。
雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
なまあつたかい、風が吹く。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)
« 春の歌を拾う<4-1>思ひ出(元) | トップページ | 春の歌を拾う<5-2>春宵感懐 »
「0001はじめての中原中也」カテゴリの記事
- <再読>時こそ今は……/彼女の時の時(2011.06.13)
- <再読>生ひ立ちの歌/雪で綴るマイ・ヒストリー(2011.06.12)
- <再読>雪の宵/ひとり酒(2011.06.11)
- <再読>修羅街輓歌/あばよ!外面(そとづら)だけの君たち(2011.06.10)
- <再読> 秋/黄色い蝶の行方(2011.06.09)
コメント