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2009年1月27日 (火)

季節のない歌・空の歌3-2

「在りし日の歌」の中の
「空の歌」を
眺めてみましょう。

数えていませんが
全詩の約5割に
さまざまな「空」が現れます。

ここでも
自然の空と
思想の空(宗教の空)に
分けられることでしょう。

とにかく
眺めるだけでも
何かが見えてきます。

「含羞」
空は死児等の亡霊にみち まばたきぬ

「むなしさ」
遐(とお)き空 線条に鳴る

「早春の風」
煙は空に身をすさび
物干竿は空に往き

「三歳の記憶」
隣家(となり)は空に 舞ひ去つてゐた!

「雨の日」
見え匿(かく)れする雨の空。

「春」
その汗を乾かさうと、雲雀(ひばり)は空に隲(あが)る。
長い校舎から合唱は空にあがる。
厳(いか)めしい紺青(こあお)となつて空から私に降りかゝかる。

「春の日の歌」
野原の 空の 空のうへ?
ながれて ゆくか 空の国?

「夏の夜」
霧の夜空は 高くて黒い。

「この小児」
コボルト空に往交(ゆきか)へば、
黒雲空にすぢ引けば、
青空をばかり――
浜の空

「秋の日」
泣きも いでなん 空の 潤み

「冬の明け方」
空は悲しい衰弱。
青空が開く。
上の上の空でジュピター神の砲(ひづつ)が鳴る。
道は空へと挨拶する。

「老いたる者をして」
東雲の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く

「秋の消息」
けざやけき顥気(こうき)の底に青空は
空に揚りて漂へり

「骨」
幾分空を反映する。

「秋日狂乱」
空の青も涙にうるんでゐる

「春と赤ン坊」
いいえ、空で鳴るのは、電線です電線です
ひねもす、空で鳴るのは、あれは電線です
走つてゆくのは菜の花畑や空の白雲(しろくも)

「雲雀」
ひねもす空で鳴りますは
ひねもす空で啼きますは
あーをい あーをい空の下

「初夏の夜」
大河(おおかは)の、その鉄橋の上方に、空はぼんやりと石磐色であるのです。

「北の海」
曇つた北海の空の下、
空を呪つてゐるのです。

「頑是ない歌」
港の空に鳴り響いた
月はその時空にゐた

「閑寂」
土は薔薇色(ばらいろ)、空には雲雀(ひばり)
空はきれいな四月です。

「除夜の鐘」
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
それは寺院の森の霧つた空……

「曇天」
ある朝 僕は 空の 中に、
空の 奥処(おくが)に 舞ひ入る 如く。
はたはた はたはた み空に ひとり、

「ゆきてかへらぬ」
風信機(かざみ)の上の空の色、
さてその空には銀色に、蜘蛛の巣が光り輝いてゐた。

「言葉なき歌」
とほくとほく いつまでも茜(あかね)の空にたなびいてゐた

「或る男の肖像」
暖かいお茶も黄昏(たそがれ)の空とともに

「正午」
空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立つてゐる
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな

「春日狂想」
空に昇つて、光つて、消えて――

「蛙声」
その声は、空より来り、
空へと去るのであらう?

(つづく)

 *
 この小児

コボルト空に往交(ゆきか)へば、
野に
蒼白の
この小児。

黒雲空にすぢ引けば、
この小児
搾(しぼ)る涙は
銀の液……

     地球が二つに割れゝばいい、
     そして片方は洋行すればいい、
     すれば私はもう片方に腰掛けて
     青空をばかり――

花崗の巌(いはほ)や
浜の空
み寺の屋根や
海の果て……

*コボルト Kobold(独) ドイツの伝説に現れる鉱山の地霊。または、いたずら好きな家の精。

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)

*編者注 原作第3連第2行の「もう片方」には、傍点が付されてあります。

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