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2009年1月15日 (木)

冬の詩を読む<3-3>「雪の歌」

ここで、また、寄り道することにして、
「雪の歌」を拾っておきます。

ざっと見ただけですが、
7作品が見つかりました。

「山羊の歌」に
「汚れつちまつた悲しみに……」
「雪の宵」
「生ひ立ちの歌」

「在りし日の歌」に
「冬の明け方」
「雪の賦」

「未発表詩篇」の
「ノート少年時」(1928年ー1930年)に
「雪が降ってゐる……」

「草稿詩篇」(1933年ー1936年)に
「僕の吹雪」

7作品全部を、載せておきます。

(つづく)

 *
 汚れつちまつた悲しみに……

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢む

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気(おぢけ)づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

 *
 雪の宵

      青いソフトに降る雪は
      過ぎしその手か囁(ささや)きか  白秋

ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁きか

  ふかふか煙突煙(けむ)吐いて、
  赤い火の粉も刎(は)ね上る。

今夜み空はまつ暗で、
暗い空から降る雪は……

  ほんに別れたあのをんな、
  いまごろどうしてゐるのやら。

ほんにわかれたあのをんな、
いまに帰つてくるのやら

  徐(しづ)かに私は酒のんで
  悔と悔とに身もそぞろ。

しづかにしづかに酒のんで
いとしおもひにそそらるる……

  ホテルの屋根に降る雪は
  過ぎしその手か、囁きか

ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。

 *
 生ひ立ちの歌

  Ⅰ

    幼年時
私の上に降る雪は
真綿(まわた)のやうでありました

    少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のやうでありました

    十七—十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のやうに散りました

    二十—二十二
私の上に降る雪は
雹(ひよう)であるかと思はれた

    二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました

    二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……

   Ⅱ

私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪(たきぎ)の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろ)む頃

私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました

私の上に降る雪は
熱い額に落ちもくる
涙のやうでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞潔でありました

 *
 冬の明け方

残んの雪が瓦に少なく固く
枯木の小枝が鹿のやうに睡(ねむ)い、
冬の朝の六時
私の頭も睡い。

烏が啼いて通る——
庭の地面も鹿のやうに睡い。
——林が逃げた農家が逃げた、
空は悲しい衰弱。
     私の心は悲しい……

やがて薄日が射し
青空が開(あ)く。
上の上の空でジュピター神の砲(ひづつ)が鳴る。
——四方(よも)の山が沈み、

農家の庭が欠伸(あくび)をし、
道は空へと挨拶する。
     私の心は悲しい……

 *
 雪の賦

雪が降るとこのわたくしには、人生が、
かなしくもうつくしいものに——
憂愁にみちたものに、思へるのであつた。

その雪は、中世の、暗いお城の塀にも降り、
大高源吾(おほたかげんご)の頃にも降つた……

幾多(あまた)々々の孤児の手は、
そのためにかじかんで、
都会の夕べはそのために十分悲しくあつたのだ。

ロシアの田舎の別荘の、
矢来の彼方(かなた)に見る雪は、
うんざりする程(ほど)永遠で、

雪の降る日は高貴の夫人も、
ちつとは愚痴でもあらうと思はれ……

雪が降るとこのわたくしには、人生が
かなしくもうつくしいものに——
憂愁にみちたものに、思へるのであつた。

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)

 *
 雪が降ってゐる……

雪が降ってゐる、
  とほくを。
雪が降ってゐる、
  とほくを。
捨てられた羊かなんぞのように
  とほくを、
雪が降ってゐる、
  とほくを。
たかい空から、
  とほくを、
とほくを
  とほくを、
お寺の屋根にも、
  それから、
たえまもなしに。
  空から、
雪が降ってゐる
  それから、
兵営にゆく道にも、
  それから、
日が暮れかかる、
  それから、
喇叭(らつぱ)がきこえる。
  それから、
雪が降ってゐる、
  なほも。

 *
 僕と吹雪

自然は、僕という貝に、
花吹雪(はなふぶ)きを、激しく吹きつけた。

僕は、現識過剰で、
腹上死同然だつた。

自然は、僕を、
吹き通してカラカラにした。

僕は、現職の、
形式だけを残した。

僕は、まるで、
論理の亡者。

僕は、既に、
亡者であつた!

  祈祷す、世の親よ、子供をして、呑気にあらしめよ
  かく慫慂するは、汝が子供の、性に目覚めること、
  遅からしめ、それよ、神経質なる者と、なさざらん
  ためなればなり。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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