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2009年1月12日 (月)

冬の詩を読む<1-1>幼獣の歌

「在りし日の歌」58篇を
タイトルや詩句や内容によって
便宜的に「秋」「夏」「春」「冬」と
分けて読んだらどうなるか。
思いつきではじめ、
残すは「冬の歌」だけとなりました。

「冬の歌」をさらってみると
次のようになります。

むなしさ
青い瞳 2 冬の朝
幼獣の歌
冬の記憶
冷たい夜
冬の明け方
冬の夜
北の海
頑是ない歌
除夜の鐘
雪の譜
冬の長門峡

さて、これで、「在りし日の歌」58篇を
春夏秋冬という角度ですべてさらったのですが
残った作品があります。

季節を表す詩句語句がないものや
どの季節に分類してよいかわからないもの、
断定できないもの、
しないほうがよいものなどが
残ったことになります。
これを、この場では「無季の歌」と
あくまで便宜的にですが
呼んでおきます。

一瞥して、
「永訣の秋」には、
この「無季の歌」が多いことに気づきます。
「永訣の秋」なのだから
「秋の歌」であろう、と思うのですが
そうはなっていません。

というわけで、
「在りし日の歌」を
まだ読んでいないはじめのほうに
戻りますと、
「死」をテーマとした作品の多い
詩集後半部に比べて
なにがしか「明るさ」が感じられる詩に出会います。

「幼獣の歌」には、その「明るさ」があります。
はじめとっつきにくい作品かもしれませんが
何度も何度も読んでいると、
次第にわかりはじめ
忘れられない歌になる、といった作品の一つです。

(つづく)

 *
 幼獣の歌

黒い夜草深い野にあつて、
一匹の獣(けもの)が火消壺の中で
燧石(ひうちいし)を打つて、星を作つた。
冬を混ぜる 風が鳴つて。

獣はもはや、なんにも見なかつた。
カスタニェットと月光のほか
目覚ますことなき星を抱いて、
壺の中には冒涜(ぼうとく)を迎へて。

雨後らしく思ひ出は一塊(いつくわい)となつて
風と肩を組み、波を打つた。
あゝ なまめかしい物語――
奴隷も王女と美しかれよ。

     卵殻もどきの貴公子の微笑と
     遅鈍な子供の白血球とは、
     それな獣を怖がらす。

黒い夜草深い野の中で、
一匹の獣の心は燻(くすぶ)る。
黒い夜草深い野の中で――
太古(むかし)は、独語も美しかつた!……

*カスタニェット カスタネットのこと。

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)

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