冬の詩を読む<3> 冷たい夜
「冷たい夜」は、
「四季」の昭和11年(1936年)2月号に
発表された作品。
同年1月の制作
と推定されています。
前年12月、同誌同人になりましたから、
「四季」同人としての初作品です。
ここでは、
冬の寒い夜の
私の気持ちが歌われているのですが
私とは、詩人であり
詩作の困難さも歌われています。
詩人論の歌として読んでも
面白い歌ということになります。
冬の夜に
私の心は悲しんでいる
わけもなく、悲しんでいる
心は錆びちゃって、紫色に固まっている
私は頑丈な扉の中に閉ざされていて
扉の向こうには
昔のことがほったらかしになったままだ
丘の上では
綿の実がはじけている、というのに。
ここでは、薪が燃え燻って
煙が立ち上っているが
煙は、自ら、燃えていないことを知るかのように
心細げに上っている
誘われるでもなく
求めるでもなく
頼りなげに立ち上っている煙は
私を見るようで
私の心さへ燻っているよ
*
冷たい夜
冬の夜に
私の心が悲しんでゐる
悲しんでゐる、わけもなく……
心は錆びて、紫色をしてゐる。
丈夫な扉の向ふに、
古い日は放心してゐる。
丘の上では
棉の実が罅裂(はじ)ける。
此処(ここ)では薪が燻(くすぶ)つてゐる、
その煙は、自分自らを
知つてでもゐるやうにのぼる。
誘はれるでもなく
覓(もと)めるでもなく、
私の心が燻る……
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)
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