空の歌・曇天
「曇天」も
季節を感じさせる風物がなく
あえて言えば
冬か秋か……。
あえて季節を決めることもなく
ならば、「空の歌」とするのが
無理がない。
季節のない、空の歌です。
こちらは、
題名からして
「空」のことです。
曇った空、曇り空のこと
曇天どんてんです。
注目は、
空の 奥処(おくが)に 舞ひ入る 如く。
の、空の 奥処(おくが)、です
空の奥、は、
空の国、とか、
空のうえ、とかと
同じことでしょう。
その空の奥へ、舞い入るように
黒い旗がハタハタはためいている
小さい時には野原の上
今は都会の瓦屋根の上に、
変わらずに
ハタハタはためいている
空の奥のほうに
あるものが
ここでは、旗と明示されているのですが
旗は旗であり
旗以外の何ものでもなく
旗ってなんだろう、と
考えてしまう旗です。
ずっと変わらずに
がんばっている旗、なのか
あの時も今も、
ぼくを脅かす
不吉なもののシンボルなのか
どちらにも受け取れるような……。
気になります。
気になる旗です。
(つづく)
*
曇天
ある朝 僕は 空の 中に、
黒い 旗が はためくを 見た。
はたはた それは はためいて ゐたが、
音は きこえぬ 高きが ゆゑに。
手繰り 下ろさうと 僕は したが、
綱も なければ それも 叶(かな)はず、
旗は はたはた はためく ばかり、
空の 奥処(おくが)に 舞ひ入る 如く。
かかる 朝(あした)を 少年の 日も、
屡々(しばしば) 見たりと 僕は 憶(おも)ふ。
かの時は そを 野原の 上に、
今はた 都会の 甍(いらか)の 上に。
かの時 この時 時は 隔つれ、
此処(ここ)と 彼処(かしこ)と 所は 異れ、
はたはた はたはた み空に ひとり、
いまも 渝(かは)らぬ かの 黒旗よ。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』より)
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