空の歌・秋の夜空
あっちへ行ったり
こっちへ行ったりしますが
「秋の夜空」では、
詩人は空へ行ってしまいます。
行くといっても
下界から見上げているのですが
天上界の夜の宴のようすを
描きます。
そこは、
高貴な夫人たちが
賑わしくパーティーの真っ最中。
ああでもないこうでもない、と
おしゃべりしているのです。
磨かれてすべすべした床、
カンテラの灯りは金色です
小さな頭、とは、
中也らしい観察眼!
八頭身の美女を思わせる
日本人離れした女性たち。
彼女らが着ているのは、
床を引きずる長い裾のドレス。
みなさん立っていて、
椅子を置いていない
立食パーティーです。
ギラギラした明るさではなく
ほんのり明るい上天界は
遠い昔の影祭りのような
静かな夜の宴になっています。
ぼくはそっとその様子を見ていましたが……。
知らない間に、
みなさんいなくなってしまいました。
と、宴の終わりと同時に
ぼくが空想する
天上界も見えなくなります。
ぼくのいる下界は
寂しい秋の夜です……。
詩人の夜空では
ほんのりあかるく
しずかなにぎわしさの中で
夫人たちの宴が
行われていました。
この安らかで
はかないイメージは
詩人が空に求めたもの……。
(つづく)
*
秋の夜空
これはまあ、おにぎはしい、
みんなてんでなことをいふ
それでもつれぬみやびさよ
いづれ揃つて夫人たち。
下界は秋の夜といふに
上天界のにぎはしさ。
すべすべしてゐる床(ゆか)の上、
金のカンテラ点(つ)いてゐる。
小さな頭、長い裳裾(すそ)、
椅子は一つもないのです。
下界は秋の夜といふに
上天界のあかるさよ。
ほんのりあかるい上天界
遐(とほ)き昔の影祭、
しづかなしづかな賑はしさ
上天界の夜(よる)の宴。
私は下界で見てゐたが、
知らないあひだに退散した。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』より)
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