季節のない歌・空の歌3
「空の歌」について
もう少し。
「山羊の歌」
「在りし日の歌」を
はじめから終わりまで
パラパラめくり、
「空」への言及を
もう少し、眺めてみましょう。
そう!
眺める、程度です。
まず「山羊の歌」――。
「朝の歌」
空は今日 はなだ色らし、
ひろごりて たひらかの空
「臨終」
秋空は鈍色(にびいろ)にして
白き空盲(めし)ひてありて
うすらぎて 空となるか?
「都会の夏の夜」
月は空にメダルのやうに
「凄じき黄昏」
空、演壇に立ちあがる。
「逝く夏の歌」
空は高く高く、それを見てゐた。
風はリボンを空に送り、
「悲しき朝」
知れざる炎、空にゆき!
「夏の日の歌」
青い空は動かない、
夏の空には何かがある、
「秋の夜空」
*空の字は詩句に出てこないが、タイトルに取られている。
「港市の秋」
秋空は美しいかぎり。
空は割れる。
「秋の夜空」
*詩句としては空はなく、タイトルだけにある。
「妹よ」
夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
「木蔭」
空を見上げる私の眼(まなこ)――
「失せし希望」
暗き空へと消え行きぬ
遐(とお)きみ空に見え隠る、今もなほ。
「夏」
睡るがやうな悲しさに、み空をとほく
空は燃え、畑はつづき
「心象」
空は暗い綿だつた。
涙湧く。
み空の方より、
風の吹く
「みちこ」
またなが目にはかの空の
空になん、汝(な)の息絶ゆるとわれはながめぬ。
「修羅街輓歌」
空は青く、すべてのものはまぶしくかゞやかしかつた……
空の如くははてもなし。
「雪の宵」
今夜み空はまつ暗で、
「憔悴」
あゝ 空の奥、空の奥。
あゝ 空の歌、海の歌。
「いのちの声」
ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於いて文句はないのだ。
(つづく)
*
この小児
コボルト空に往交(ゆきか)へば、
野に
蒼白の
この小児。
黒雲空にすぢ引けば、
この小児
搾(しぼ)る涙は
銀の液……
地球が二つに割れゝばいい、
そして片方は洋行すればいい、
すれば私はもう片方に腰掛けて
青空をばかり――
花崗の巌(いはほ)や
浜の空
み寺の屋根や
海の果て……
*コボルト Kobold(独) ドイツの伝説に現れる鉱山の地霊。または、いたずら好きな家の精。
(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)
*編者注 原作第3連第2行の「もう片方」には、傍点が付されてあります。
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