カテゴリー

2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 冬の詩を読む<4>冬の明け方 | トップページ | 冬の詩を読む<5-2>冬の夜 »

2009年1月17日 (土)

冬の詩を読む<5>冬の夜

みなさん、と呼びかける詩は、
この「冬の夜」のほかに、
「春宵感懐」
「春日狂想」がありました。

これは、
みなさん、という呼びかけの言葉がある詩を収集した
ということばかりでなく、
中原中也の詩が、
メッセージ性をもつ詩、
メッセージ詩に豊富であることの
現れの一つを示しています。

「春宵感懐」の第1連、

みなさん、今夜は、春の宵(よひ)。
 なまあつたかい、風が吹く。

「春日狂想」の最終連、

ではみなさん、
喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
(略)

ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に――
テムポ正しく、握手をしましせう。

よく考えてみると
自分の死後を見る詩「骨」の、
ホラホラ、これが僕の骨だ、
の、ホラホラも呼びかけの言葉ですから、
「呼びかけの詩」と
呼んでよいかもしれません。

みなさん
今夜は静かな夜です
さきほどから、
ストーブの上の薬罐が
チンチンと音を立てています
ぼくは、女のことをずっと思っています
ぼくには、女がいないのです。

それで、何の苦労もないのです
何とも言えない弾力のある
いっぱいあっても、
あると感じていない
空気のような空想のように
女のことを思うだけです

空気のような空想、とは
二重否定に近い用語法ですが
空想の空しさ
空しい空想、くらいの意味にとり、
女を空想する空しさを表している、
と、とりましたが、どうでしょうか。

何とも言えない弾力のある
澄み渡った夜のしじまに
薬罐の音を聞きながら
女のことを夢見ているのです

こうして夜は更けて
犬だけが眠っていない冬の夜
物の影と、煙草と、ぼくと犬の
何とも言えないカクテル!

ここまでが、前半の1です。

(つづく)

 *
 冬の夜

みなさん今夜は静かです
薬鑵(やくわん)の音がしてゐます
僕は女を想つてる
僕には女がないのです

それで苦労もないのです
えもいはれない弾力の
空気のやうな空想に
女を描いてみてゐるのです

えもいはれない弾力の
澄み亙(わた)つたる夜の沈黙(しじま)
薬鑵の音を聞きながら
女を夢みてゐるのです

かくて夜は更(ふ)け夜は深まつて
犬のみ覚めたる冬の夜は
影と煙草と僕と犬
えもいはれないカクテールです

   2

空気よりよいものはないのです
それも寒い夜の室内の空気よりもよいものはないのです
煙よりよいものはないのです
煙より 愉快なものもないのです
やがてはそれがお分りなのです
同感なさる時が 来るのです

空気よりよいものはないのです
寒い夜の痩せた年増女(としま)の手のやうな
その手の弾力のやうな やはらかい またかたい
かたいやうな その手の弾力のやうな
煙のやうな その女の情熱のやうな
炎(も)えるやうな 消えるやうな

冬の夜の室内の 空気よりよいものはないのです

(角川文庫クラシックス 佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』」より)

« 冬の詩を読む<4>冬の明け方 | トップページ | 冬の詩を読む<5-2>冬の夜 »

0001はじめての中原中也」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 冬の詩を読む<5>冬の夜:

« 冬の詩を読む<4>冬の明け方 | トップページ | 冬の詩を読む<5-2>冬の夜 »