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2009年2月 5日 (木)

詩の入り口について/ためいき<2>

ためいき、は、だれのだろう
若い学者仲間、とは、だれを指し、だれのだろう
荷車を挽いた百姓、とは、だれのことだろう
私、とは、詩人自身のことだろうか
ピョートル大帝、には、どんなメタファーが込められているのだろう

「ためいき」に出てくる人間たちの
まずは、位置関係を知ろうと、
ためいきを吐くのは、
詩人か、
この詩の献呈相手である河上徹太郎のことか、
そのどちらでもない、だれかのためいきか、
または、そんなことは特定しなくてもよいことか
手がかりのない状態で読んでみると……。

夜遅く散歩していると
ためいきが一つ出て
折しも通りかかった公園の沼のほとりの
フィトンチッドいっぱいの空気の中で
ためいきはまばたきして、
うらめしそうに流れては、
パチンと大きな音を立てるでしょう、

ためいきが瞬きする
それがパチンと音を立てる
なにやら、普通の溜息ではなくて、大きなためいき……、

それを
であろう、と、
未来・推測の意味をもたせて使い、
ためいきをはく本人が
だれであるかを明らかにしません。

それが止むとき、
パチンと音を立てるような
明快なためいきが漏れるでしょう、
夜の沼のほとり……。
森の木々は、
若い学者のお仲間たちの、
首筋のように、むさくるしさがなく
すっきり、ほっそりしていることでしょう

学者仲間となると、
中也の仲間の学者たちともとれるし
河上徹太郎の仲間ともとれるし
両者に共通の学者たちかもしれないし
学者を、文字通りの学者ととらず
お勉強好きなお友達、
くらいにとってもいいのでしょうか

第2連に進み
夜が明けると、地平線に窓が開く、
となると、これは、
新感覚派的な表現なのか
シュールなのか
夜が明けると、
地平線の見えるほどの広大な空間が
パッと眼前に開ける、という意味の
中也的な表現なのか

荷車をひいた百姓が
地平線の向こうのほうにある町へ
行くでしょう、と
ここでも、推測形です。
ためいきはなお深く、と
ここに出てきた百姓が吐く
ためいきであるかのように、
百姓がひく荷車の音のようである、と
ためいきが荷車の音に喩えられます。

第3連。
ここに、私、が登場します。
第3連は、起承転結の転にあたりますから
展開があるのでしょうか
私、が出てきたことが劇的な感じで、
広々とした野原に、
山の端っこから飛び出した松の木があって
その松が私を見守っていることでしょう、
その松は、あっさりしていて、無闇に笑わない、
父親の兄弟であるおじさんのようでしょう。

ここで、第3連3行、
神様が気層の底の、魚を捕つてゐるやうだ。
と、推測ではなく、
直喩で、そのおじさんを、
神様に喩(たと)えます。
その神様は、空気の底で、魚を捕まえているようです。

第4連1行は、
空が曇つたら、蝗螽(いなご)の瞳が、砂土の中に覗くだらう。
と、暗示的で謎めいて、
空が曇ると、イナゴの目が、地面から覗く、
という不可思議な情景をはさみ、

第4連3、4行も、
遠くに町が、石灰みたいだ。
ピョートル大帝の目玉が、雲の中で光つてゐる。
と、だろう、を使わず、
推測ではありません。

遠くに見える町は、
石造建築だからでしょう
白くて、石灰のように見えます。
ロシアの町なのでしょう
ピョートル大帝の目玉が、
ギロギロと、雲の中から町を
見下ろしているのが見えます。

ここで、
雲の中で光つてゐる。
と、断定の現在形で、
この詩は終わるのです。

3次元で時系列に沿ったドラマを
組み立てようとするのは
無理なのかもしれません。
イメージの世界で、
一貫したストーリーを作ろうとすると
失敗するのかもしれません。

詩は、
数学ではありません。

(つづく)

 *
 ためいき
   河上徹太郎に

ためいきは夜の沼にゆき、
瘴気(しやうき)の中で瞬きをするであらう。
その瞬きは怨めしさうにながれながら、パチンと音をたてるだらう。
木々が若い学者仲間の、頸すぢのやうであるだらう。

夜が明けたら地平線に、窓が開(あ)くだらう。
荷車を挽いた百姓が、町の方へ行くだらう。
ためいきはなほ深くして、
丘に響きあたる荷車の音のやうであるだらう。

野原に突出た山ノ端の松が、私を看守(みまも)つてゐるだらう。
それはあつさりしてても笑はない、叔父さんのやうであるだらう。
神様が気層の底の、魚を捕つてゐるやうだ。

空が曇つたら、蝗螽(いなご)の瞳が、砂土の中に覗くだらう。
遠くに町が、石灰みたいだ。
ピョートル大帝の目玉が、雲の中で光つてゐる。

*瘴気 熱病を起させる毒気。
*ピョートル大帝 ロシア皇帝ピョートル一世(1672―1724)。西欧文化を積極的に取り入れ、絶対主義帝政を確立した。

(佐々木幹郎編「中原中也詩集『山羊の歌』角川文庫クラシックスより)

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