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2009年4月 3日 (金)

「曇天」までのいくつかの詩<3>坊や

昭和9年(1934年)10月18日、
長男・文也が誕生。
子どものことは、
他人の子であっても
無心に可愛がった詩人に
「我が子」ができたのです。

 

「坊や」は
1935・1・9の制作日付を持ちますから、
生後3か月も経っていません。

 

悲しいことばかりを歌う
と思われている詩人が
こんな歌を歌っているのですが……。

 

硬い粘土の小さな溝を
流れる清水のやうに泣く

 

なんとも上手な言い回しでしょう!
流れる清水のように
いつ終わるとも知れない
赤ん坊の泣き声

 

その陽の照った山の上の
硬い粘土の小さな溝を
山に清水が流れるやうに
泣くのです。

 

赤ん坊が泣きやまないで
ずっとずっと泣いている様子を
長い形容句を置いて
表現しています。

 

陽の照った
山の上の
硬い粘土の
小さな溝を
流れる清水のように
坊やの
泣き声は
終わらないのです

 

母親は
くたびれて、
起き出すこともできない
子を持つ親が
一度は経験するであろう
出生間もない時期の情景が
浮かんできます。

 

この、泣きやまない子は
詩人のことでもある、とは、
大岡昇平の指摘を待つまでもなく、
いつしか、
悲しみの泣き声になっているかのようにも
感じられてきます。

 

 *
 坊や

 

山に清水が流れるやうに
その陽の照った山の上の
硬い粘土の小さな溝を
山に清水が流れるやうに

 

何も解せぬ僕の赤子(ぼーや)は
今夜もこんなに寒い真夜中
硬い粘土の小さな溝を
流れる清水のやうに泣く

 

母親とては眠いので
目が覚めたとて構ひはせぬ
赤子(ぼーや)は硬い粘土の溝を
流れる清水のやうに泣く

 

その陽の照った山の上の
硬い粘土の小さな溝を
さらさらさらと流れるやうに清水のやうに
寒い真夜中赤子(ぼーや)は泣くよ
          一九三五・一・九

 

 (角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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