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2009年4月24日 (金)

「曇天」までのいくつかの詩<15>吾子よ吾子

Hat

 

 

 

夢に、現に、幻に……
ゆめに、うつつに、まぼろしに……
見えてくるのは、何だろう
いつもいつも
心にまといついて、
離れないこの気持ちは、
どんな愛、どんな夢……
といったらよいのだろうか

 

思い出せばなつかしく
心の中に染み入るようななつかしさで、
海伝いの雨や風や嵐が
憎らしくなってくるこの気持ちは何だろう

 

雨に遭わないように
風に遭わないように
嵐に遭わないように
育ってほしい
愛(め)ぐしき
我が子よ
ああ、健やかに
育ってほしい
どうしても
育ってほしい
と思う、この気持ちを
どうしたらいいものか

 

めぐしき、は、
万葉集などによく使われている
古い言葉で、
愛でる、の、め、
と同じく「愛」を当てるようになったのは
明治以降か。

 

七五調を基本に
七七、七六、五七も混ざるが
定型への意思のある作品です。

 

離れていれば
思い出し
思い出せば懐かしく
心に染みて懐かしく
夢にも出てこようものなら
ズキズキ心が痛みます……

 

 

 

 * 
 吾子よ吾子

 

ゆめに、うつつに、まぼろしに……
見ゆるは、何ぞ、いつもいつも
心に纏(まと)ひて離れざるは、
いかなる愛(なさけ)、いかなる夢ぞ、

 

思ひ出でては懐かしく
心に沁みて懐かしく
磯辺の雨や風や嵐が
にくらしうなる心は何ぞ

 

雨に、風に、嵐にあてず、
育てばや、めぐしき吾子よ、
育てばや、めぐしき吾子よ、
育てばや、あゝいかにせん

 

思ひ出でては懐かしく、
心に沁みて懐かしく、
吾子わが夢に入るほどは
いつもわが身のいたまるゝ
   (一九三五・六・六)

 

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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