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2009年4月30日 (木)

「曇天」までのいくつかの詩<17>初恋集ほか

Glass_2

 

大岡昇平が
この時期は盛んな「在りし日」の氾濫があったらしい。
と、「在りし日の歌」(1966年)で記した、
1934年(昭和9年)の
「月下の告白」「秋岸清凉居士」から
「曇天」が書かれた1936年(昭和11年)の間の作品を
引き続き、読んでいきます。

 

大岡が、列挙しているのは、

 

「別離」○
「初恋集」
「雲」
「青い瞳」○
「坊や」○
「童女」○
「山上のひととき」○
「むなしさ」○
「冬の夜」○
「寒い!」
「我がヂレンマ」
「春と赤ン坊」○
「白夜とポプラ」
「幻影」○

 

です。

 

○ は、「曇天」までのいくつかの詩
として既に読んだ作品です。

 

赤ん坊・子どもを歌った歌では、
「誘蛾燈詠歌」    
「大島行葵丸にて」
「夜半の嵐」などと、
大岡があげなかった作品や
「曇天」以降と推定される作品も
読んできました。

 

長男・文也が
1934年(昭和9年)に誕生して、
赤ん坊や子どもを歌った歌を
中原中也は多く制作したのですが、
大岡昇平の作品評は厳しく、
「この時期は、盛んな在りし日の氾濫があったらしい。」と記した後、
次のような評言を加えています。
(*引用は、改行、行空きなどで、分かりやすくしてあります。編者)

 

「別離」(十一月十三日)「初恋集」(十年一月十一日)「雲」などの感傷詩では、
幼年時のはかない恋情に意味がつけられ、

 

「青い瞳」(「四季」昭和十年十二月号)のようなメロドラマが工夫される。

 

「山に清水が流れるやうに泣く」(「坊や」)
「眠れよ、眠れ、よい心、飛行機虫の夢を見よ」(「童女」)
「いとしい者の上に風が吹き」(「山上のひととき」)のような
文也を歌った詩で、
僅かに現実とのつながりがたしかめられるだけである。

 

こういう詩学はあまり健康ではないから、
豊かな創造を許すものではない。

 

この頃彼が雑誌に発表するのは
「むなしさ」「冬の夜」のような旧作でなければ、

 

「寒い!」「我がヂレンマ」のような、
詩人の心境を、あまり巧みではなく告白した詩である。

 

その間「春と赤ン坊」のような童謡的発想で、
愛唱詩人として、
点をかせいでいるにすぎない。

 

では、
「初恋集」を読んでみることにします。

 

(つづく)

 

 *
 初恋集

 

 すずえ

 

それは実際あつたことでせうか
 それは実際あつたことでせうか
僕とあなたが嘗(かつ)ては愛した?
 あゝそんなことが、あつたでせうか。

 

あなたはその時十四でした
 僕はその時十五でした
冬休み、親戚で二人は会つて
 ほんの一週間、一緒に暮した

 

あゝそんなことがあつたでせうか
 あつたには、ちがひないけど
どうもほんとと、今は思へぬ
 あなたの顔はおぼえてゐるが

 

あなたはその後遠い国に
 お嫁に行つたと僕は聞いた
それを話した男といふのは
 至極(しごく)普通の顔付してゐた

 

それを話した男といふのは
 至極普通の顔してゐたやう
子供も二人あるといつた
 亭主は会社に出てるといつた

 

 むつよ

 

あなたは僕より年が一つ上で
あなたは何かと姉さんぶるのでしたが
実は僕のほうがしつかりしてると
僕は思つてゐたのでした

 

ほんに、思へば幼い恋でした
僕が十三で、あなたが十四だつた。
その後、あなたは、僕を去つたが
僕は何時まで、あなたを思つてゐた……

 

それから暫(しばら)くしてからのこと、
野原に僕の家(うち)の野羊(やぎ)が放してあつたのを
あなたは、暫く遊んでゐました

 

僕は背戸(せど)から、見てゐたのでした。
僕がどんなに泣き笑ひしたか、
野原の若草に、夕陽が斜めにあたつて
それはそれは涙のやうな、きれいな夕方でそれはあつた。
         (一九三五・一・一一)

 

 終歌

 

噛んでやれ、叩いてやれ。
吐き出してやれ。
吐き出してやれ!

 

噛んでやれ。(マシマロやい。)
噛んでやれ。
吐き出してやれ!

 

(懐かしや。恨めしや。)
今度会つたら、
どうしよか?
噛んでやれ。噛んでやれ。
叩いて、叩いて、
叩いてやれ!
     (一九三五・一・一一)

 

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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