失恋の夜/夜寒の都会
未発表詩篇から、
都会の風景、
それも東京の風景を
歌った作品をいくつか読んでみます。
「草稿詩篇(1925~1928)」には
「夜寒と都会」があります。
この頃、ダダを抜け出ていません。
抜け出る必要を感じていなかったのかも知れません。
第2連の、
この洟(はな)色の目の婦、
コノハナイロノメノオンナ、
は、長谷川泰子のことでしょう、きっと。
東京に来て
元気になった女が
今宵も
心ここにあらず……
ここ、とは、ぼくのこと、
つまり、詩人につれない態度をとります
ぼくは、
夜のしじま(静寂)に
取り残され
熟した、赤黒い苺のような
孤独の中にいます
そうした状態を
イエスの物語にかぶせ、
ダダ的な韜晦(とうかい)
めくらましの術を使って
なにやら、
意味ありげなメッセージとなるのですが、
要するに、
これは、失恋の詩といってよいでしょう。
*
夜寒の都会
外燈に誘出された長い板塀、
人々は影を連れて歩く。
星の子供は声をかぎりに、
たゞよふ靄(もや)をコロイドとする。
亡国に来て元気になつた、
この洟(はな)色の目の婦、
今夜こそ心もない、魂もない。
舗道の上には勇ましく、
黄銅の胸像が歩いて行つた。
私は沈黙から紫がかつた、
数箇の苺(いちご)を受け取とつた。
ガリラヤの湖にしたりながら、
天子は自分の胯(また)を裂いて、
ずたずたに甘えてすべてを呪つた。
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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