異郷の詩人/浮浪
「草稿詩篇(1925〜1928)」から
「浮浪」という作品。
東京市民を
誇らかに歌った詩人ではありましたが、
実はその東京とは
知る人の少ない
異郷の地でありました。
停車場の水を撒いたホームが
……恋しい。
と、望郷の思いを
洩らすことがあったのです。
*
浮浪
私は出てきた、
街に灯がともつて
電車がとほつてゆく。
今夜人通も多い。
私も歩いてゆく。
もうだいぶ冬らしくなつて
人の心はせはしい。なんとなく
きらびやかで淋しい。
建物の上の深い空に
霧がただよつてゐる。
一切合財(いっさいがっさい)が昔の元気で
拵(こしら)へた笑(えみ)をたたへてゐる。
食べたいものもないし
行くとこもない。
停車場の水を撒いたホームが
……恋しい。
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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