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2009年5月20日 (水)

一人ぼっちの酒/カフェにて

「早大ノート」(1930〜1937)の3番目にある
「カフェにて」。

日本では、明治時代に
パリのサロンをまねた
大衆酒場が流行りました。
そこには女給がいて
ウェイトレスというより
ホステスに似た仕事をしていたという話です。

つまり
カフェは、コーヒーを出す
今の喫茶店ではなく
酒を出す風俗営業店に
近いものだったらしい。

向田邦子の「父の詫び状」には、
銀座のカフェで遊んだ父が
女給たちを家に連れて帰り
泊まらせて大騒ぎになった
というエピソードがあります。
あれです。

詩人も
カフェによく出かけました。
そこで、
文学上の議論に熱中し、
しばしば喧嘩に発展したことは
よく知られたことです。

この作品は
一人静かに飲む酒のようで、
秋風がこころに沁みる
寂寥を歌っています。


カフェにて

酔客の、さわがしさのなか、
ギタアルのレコード鳴って、
今晩も、わたしはここで、
ちびちびと、飲み更かします

人々は、挨拶交はし、
杯の、やりとりをして、
秋寄する、この宵をしも、
これはまあ、きらびやかなことです

わたくしは、しょんぼりとして、
自然よりよいものは、さらにもないと、
悟りすましてひえびえと
ギタアルきいて、身も世もあらぬ思ひして
酒啜(すす)ります、その酒に、秋風沁(し)みて
それはもう 結構なさびしさでございました

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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