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2009年5月21日 (木)

新宿・渋谷のアドバルーン/秋の日曜

「早大ノート」(1930〜1937)の
終わりの方にある
「秋の日曜」。

詩人は、
渋谷区山谷、というのは、
小田急線南新宿駅近くの
小田急電鉄本社の隣りあたりに
住んでいたことがあり、
この家の部屋から
三越か伊勢丹か
新宿の百貨店の屋上に揺れる
アドバルーンを
目にすることがありました。

千駄ヶ谷も渋谷区ですが
ここにも住んでいたことがあり、
ここからも
新宿や渋谷のアドバルーンは見えたはずですが、
あるいは、
渋谷区神山に住んでいたこともあり、
ここからも、
渋谷東横デパート屋上のアドバルーンは
見えたかも知れません。

第2連

青い空は金色に澄み、
そこから茸(きのこ)の薫りは生れ、
娘は生れ夢も生れる。

これは、
秋の景色でありましょう。
一点の翳(かげ)りもない
秋の、ある日曜日の空に
二つのアドバルーンが
ゆらりゆらり……。

その冴え渡った日の
風は冷たく、
雨上がりの日のようで
どうも
初対面の人同士
簡単に気安く馴染めるものではないなあ、と
デリケートな心持ちを
歌っています。

冴え冴えとした秋晴れであるがゆえに、
見知らぬものと
容易にはうち解けられない……。

すでに見知ったものとの再会なら
容易なのですが
あの貞淑そうな奥さまでさえ
少し昔のことを思い出しては
笑っている、
そのような秋の日です。


秋の日曜

私の部屋の、窓越しに
みえるのは、エア・サイン
軽くあがつた 二つの気球

青い空は金色に澄み、
そこから茸(きのこ)の薫りは生れ、
娘は生れ夢も生れる。

でも、風は冷え、
街はいつたいに雨の翌日のやうで
はじめて紹介される人同志はなじまない。

誰もかも再会に懐しむ、
あの貞順な奥さんも
昔の喜びに笑ひいでる。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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