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2009年12月18日 (金)

1931年の詩篇<3>(秋の夜に)

20091103_091

(秋の夜に)は、
「早大ノート」の中の
(われ等のヂェネレーションには仕事がない)や、
(支那といふのは、吊鐘の中に這入つている蛇のやうなもの)の前にあり、
1931年制作と推定されている草稿作品です。

奉天郊外の柳条湖で
関東軍が南満州鉄道を爆破したのは
9月ですから
この(秋の夜に)も
満州事変のニュースを知った詩人の
心の揺らぎのようなものが
感じられます。

冒頭第2行の
僕は僕が破裂する夢を見て目が醒(さ)めた。
は、
「僕が破裂する」という
夢にしては強烈な衝撃ではじまり、
この夢のただならなさが訴えられます。

世界に暗雲が垂れこめ
戦争が起こるかもしれないのに
だれもそのことに気づかない

気づいても何か特別にできることもないのだが
気づいた人は、今よりももっと病的になることだろう

デカダン、サンボリスム、キュビスム、未来派、
表現派、ダダイスム、スュルレアリスム、共同製作……

戦争の陰で
これらの芸術運動も
うめき、ためらい、しぼみ……
牛肉色に染まっている

しかし、病的である人こそは、
世界の現実を知っているように、
私には思えるのです。

健全とは出来たばかりの銅鑼だ
なんとも淋しい秋の夜じゃないですか。

 * 
(秋の夜に)

秋の夜に、
僕は僕が破裂する夢を見て目が醒(さ)めた。

人類の背後には、はや暗雲が密集してゐる
多くの人はまだそのことに気が付かぬ

気が付いた所で、格別別様のことが出来だすわけではないのだが、
気が付かれたら、諸君ももつと病的になられるであらう。

デカダン、サンボリスム、キュビスム、未来派、
表現派、ダダイスム、スュルレアリスム、共同製作……

世界は、呻(うめ)き、躊躇し、萎(しぼ)み、
牛肉のやうな色をしてゐる。

然るに、今病的である者こそは、
現実を知つてゐるやうに私には思へる。

健全とははや出来たての銅鑼(どら)、
なんとも淋しい秋の夜です。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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