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2010年2月23日 (火)

早大ノート以外の1932年詩篇<4>幻想(何時かまた郵便屋は来るでせう)

「幻想」は、
「脱毛の秋 Études」と
同じ原稿用紙に続けて書かれた
草稿9枚が現存することから、
同時期に作られたことが推定され、
アラビア数字で
章立てされているのも
この二つの詩は同じです。

「幻想」は二つあり、
散文詩「幻想」と区別する必要があるとき、
「幻想(何時かまた郵便屋は来るでせう)」と
表記するならわしがあります。

「脱毛の秋 Études」が、
読み進めていくうちに
次第に
詩人論を歌った詩であることが見えはじめたように、
「幻想」の行く着くところは
最終章最終連の、

僕は輪廻ししようと思つたのだが、
輪は僕が突き出す前に駆け出しました。
  好いお天気の朝でした。

に、あるでしょうか

とすると、
気まぐれなお天気、
雨降れと願えば、晴れたよ、
まったくもう、
物事は思い通りにいかない、

忌々しくも不運な、
世渡りが下手な、
世界から取り残された僕
そういう詩人……

が歌われている
ということになりますが、
そこにたどり着くまでが
あっちへ飛び
こっちへ飛び
一貫したストーリーを
組み立てることが困難です

幻想は、
自由に飛び回るものですから
仕方ないことですし、
起承転結の物語を作ることが
必ずしも詩の目的ではないのですから、
やはり
1行1行を読むしか
詩にふれる方法はありません

1は、
女性のあなたへの
余計な(?)心配を
ああだこうだと
でせう、でせう、
という推量形で述べるのですが……

2は、
唐突に
だれかの命令、
まともな暮らしをしなさい
とでも、言われているのは、
女性なのか
詩人が命令されているのだろうか

3は、
唐突に
フランスのブルターニュの町へ飛び
ガラスが割れて
何か事件が起こります

石畳を歩く乙女、
忘れたはずの過去が
その目の底にあっても、
町に乙女が頼りにできる辞書はなかった……

4は、
唐突に
(ブルターニュではない?)
市場で俗謡が聞こえる
女はみんな瓜(うり)だなも。
は、山口方言か?
歯槽膿漏も、
女が瓜も、
どうにでもとれるダダだ。

5は、
唐突に
雨降れ、
と、今度は詩人の願いらしい

雨降れば、
瓜の肌には冷たいだろ
歴史は逆転しはじめるだろ

祖父さん祖母さんが
生きていた昔を懐かしみ
音入り映像をみんなが集まって
見ては心通わせるだろ

オルガンのようになってほしい
愛嬌はもう結構
静かに穏やかに生きてほしい
雨降れ雨降れだ
しめやかになれだ

6は、
ところが、
詩人の願いに反して
今日は晴れ、
女は、バカに気取って、
昨日しょ気ていたのを取り返す勢い。

罪もないことです
いかにも元気そうに
百貨店(?)へ入って行きます
ろくに必要でもない品物を買いに。

とかく浮世はままならぬ、か

僕は輪回しして遊ぼうと思ったのですが
輪っかは僕が回そうとしたのより先に
回りはじめて行っちゃったんです
よいお天気の朝でした。

ここに登場する女性は
やはり
長谷川泰子なのでしょうか

幻想の果ては
ひとりぼっちの
詩人……。

 *
 幻想

何時かまた郵便屋は来るでせう。
街の蔭つた、秋の日でせう、

あなたはその手紙を読むでせう
肩掛をかけて、読むでせう

窓の外を通る未亡人達は、
あなたに不思議に見えるでせう。

その女達に比べれば、
あなた自身はよつぽど幸福に思へるでせう。

そして喜んで、あなたはあなたの悩みを悩むでせう
人々はそのあなたを、すがすがしくは思ふでせう

けれどもそれにしても、あなたの傍の卓子(テーブル)の上にある
手套(てぶくろ)はその時、どんなに蒼ざめてゐるでせう

乳母車を輓(ひ)け、
紙製の風車を附けろ、
郊外に出ろ、墓参りをしろ。

ブルターニュの町で、
秋のとある日、
窓硝子(まどがらす)ははみんな割れた。

石畳は、乙女の目の底に
忘れた過去を偲んでゐた、
ブルターニュの町に辞書はなかつた。

市場通いの手籠が唄ふ
夕(ゆうべ)の日蔭の中にして、
歯槽膿漏たのもしや、
 女はみんな瓜(うり)だなも。

雨降れ、
瓜の肌には冷たかろ。
空が曇つて町曇り、
歴史が逆転はじめるだろ。

祖父(じい)さん祖母(ばあ)さんゐた頃の、
影象レコード廻るだろ
肌は冷たく、目は大きく
相寄る魂いぢらしく

オルガンのやうになれよかし
愛嬌なんかはもうたくさん
胸掻き乱さず生きよかし
雨降れ、雨降れ、しめやかに。

昨日は雨でしたが今日は晴れました。
女はばかに気取つてゐました。
  昨日悄気(しょげ)たの取返しに。

罪のないことです、
さも強さうに、産業館に這入つてゆきます、
  要らない品物一つ買ふために。

僕は輪廻ししようと思つたのだが、
輪は僕が突き出す前に駆け出しました。
  好いお天気の朝でした。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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