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2010年4月27日 (火)

草稿詩篇1933―1936<8>虫の声

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季節はめぐり
夏が訪れ
庭から虫の声が聞こえてきます
春の訪れを喜んだばかりだったのに……

中原中也は
春夏秋冬を
日記に記すかのように
詩に歌う名人です

とはいえ
自然が賛美されるだけに止まらないのも
中原中也の詩の特徴で
ここでは
幽霊が登場します

おや、今夜は、もう虫の音が聞こえる
と、耳を澄ますと
一匹あそこで鳴きやめば
こんどはこっちで鳴きはじめ
あっちでもこっちでも
鳴いているのか
と、怪しげな気持になっていると

幽霊が
ニコニコして
庭の中に
立ち現れます

見れば
慈愛深そうな
年のいった女の幽霊です

風がひと吹きして
幽霊は消えます

また
虫の音が
野原のほうから
聞こえてきます

「月夜とポプラ」にも
幽霊が登場しますし
ほかにも
幽霊のようなものが
登場する詩があります

虫の音も
単に、
コオロギや松虫が鳴くのを
歌っているのではない場合がほとんどです

死んでしまった祖先や兄弟や
死者たちの化身ででもあるかのように
虫は現れ
鳴きます

前年9月に祖母スエが死去
前々年9月に弟・恰三が死去
弟・亜郎は4歳で1915年に死去、中也8歳
祖父政熊は1921年、中也14歳のときに死去
父・謙助は1928年、中也21歳のときに死去
……

死者たちと
交流していたかのように
虫の声を聞く詩人です

 *
 虫の声

夜が更けて、
一つの虫の声がある。

それはたしかに庭で鳴いたのだが、
鳴き了(おわ)るや、それは彼処(かしこ)野原で鳴いたやうにもおもはれる。

此処(ここ)と思ひ、彼処と思ひ、
あやしげな思ひに抱かれてゐると、

此処、庭の中からにこにことして、幽霊は立ち現はれる。
よくみれば、慈しみぶかい年増婦(としま)の幽霊。

一陣の風は窓に起り、
幽霊は去る。

虫が鳴くのは、
彼処の野でだ。
          (一九三三・八・九)

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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