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2010年5月 4日 (火)

草稿詩篇1933―1936<21-2>朝(雀が鳴いてゐる)再読

「朝(雀が鳴いている)」は
1933年11月初旬に
山口帰省中に作られた(と推定される)作品で、
詩人は
この詩を制作してまもなく
結婚しました

自然に考えれば
この詩の中には
結婚を控えた者の
希望や期待や喜びが
横溢(おういつ)していて
当たり前のことです

ですから
冒頭連の

雀が鳴いてゐる
朝日が照つてゐる
私は椿の葉を想ふ

この3行は
希望や期待や喜びの表現である
と読めますから

私は椿の葉を想ふ
とは、
雀が鳴き朝日が照る
春の朝に
艶やかな緑をたたえて
幸福そうな
つばきの葉のことが思えてくる
という
安定した気持ちを
描写しているものと
受け止めることができます

肉厚な椿の葉の緑が
固有に放つ
安定した幸福感のようなものが
ピタリと言い当てられました

雀が鳴いている
それは
はやく起きて
こんなに希望に満ちた
幸せな時間を
寝ているなんてもったいない
さあ
はやく
この時間に参加して
たっぷりと
味わいなさいよ

まるで
キューピッドのように
何羽もの雀たちが
さわがしいまでに
はやしたてているようですが

でもねえ
待ってよ
そんなにすぐには起きられるものですかってんだ
ぼくはね
潅木の林の中を
走り回っている
夢を見ていたんだよ
それはそれで十分に
楽しかったんだよ

恋人よ
親や家族たちに
距てられている
ぼくの恋人よ
君はどう思うだろうか
……
ぼくはいまでも
君を大切な懐かしい人と思っているよ
懐かしく大切に思っているよ

ああ
雀が鳴いている
朝日が照っている
ぼくは椿の葉のことを思っている

詩人はこのように
幸福な時を
詩に刻んでおこうとした
という読みのほうが
素直かもしれません

そうなってくると
この詩の恋人が
長谷川泰子である可能性は
断然小さくなってきます……

 *
 朝

雀が鳴いてゐる
朝日が照つてゐる
私は椿の葉を想ふ

雀が鳴いてゐる
起きよといふ
だがそんなに直ぐは起きられようか
私は潅木林の中を
走り廻る夢をみてゐたんだ

恋人よ、親達に距(へだ)てられた私の恋人、
君はどう思ふか……
僕は今でも君を懐しい、懐しいものに思ふ

雀が鳴いてゐる
朝日が照つてゐる
私は椿の葉を想ふ

雀が鳴いてゐる
起きよといふ
だがそんなに直ぐは起きられようか
私は潅木林の中を
走り廻る夢をみてゐたんだ

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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