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2010年8月16日 (月)

草稿詩篇1925-1928<7-2>地極の天使

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「地極の天使」は
河上徹太郎への
いはば献呈詩に近いものですから
献呈された本人の鑑賞が
詩の外で交わされたであろう
諸々の会話を含めて
読み込まれたことが想像できて
他の読みは不能になりそうですが

やはりここには
詩の宣言や
詩人論が
込められているのであって
ダダっぽい「喩」に回帰しながら
中原中也が
「地極の天使」に「詩」を託した
というところに
注目しておきましょう

詩人=地極の天使からみると
対比は
「家族旅行と木箱」と
「マグデブルグの半球、レトルト」にとどまらず

われ
星に甘え、太陽に倣岸になろうとする
夢のうちなる遠近法、夏の夜風の小槌の重量
笑える陽炎、空を匿して笑へる歯
マグデブルグの半球、レトルト
讃ふべきわが従者
……
という語句群

人々
「夕暮」なき競走、油と蟲となる理想
蜂の尾と、ラム酒
家族旅行と木箱との過剰
理知にて笑はしめ、感情にて判断せしむる
御身等を呪ふ
……
という語句群

それぞれは
同義語もしくは同類語の群を構成している
と考えてもよく
しかし
一つひとつの語句は
微妙に意味を逸脱しながら
意味の重複もあるけれど
単純な同義反復になることを避けて
少しずつ意味を広げていくというような語句が選ばれ
にもかかわらず
二つの語句群の対比が
二項対立化されることに慎重であり
二分法でとらえられることをもまた牽制していることに
注意しておきたいものです

詩人が
「この詩には沢山の思想、沢山の暗示があります。もつと平明に、もつと普通の文章法で、語られるものなら語りたいのですが、それは叶ひません」と、

この詩を書き送った河上徹太郎に
コメントしているのは、
このあたりのことです

簡単にいえば
平明にも
普通の文章法でも
作ることができなかったのは
平明で普通な書き方を
下等なものと見る風潮があり
河上にも
その趣味があり
その河上に敬意を表する意図もあって
インテリゲンチャー好みの詩を
作ってみせたまでのことです

そのために
ダダは強い味方になりましたし
河上は
それをダダとはとらえずに
アバンギャルドと言いました

星に甘える、とは
死の世界を想う、ということであり
太陽に倣岸であろうとする、とは
旺盛な生命を生きようとする、ということであり
どちらも
詩人のレゾン・デートルを
暗示して
河上にはピンとくるものがあったはずです

マグデブルグの半球、も
同じことです
河上には
すこぶる気に入った表現であったに違いありません

中原中也は
いずれ
思う存分ではないにしても
詩人についての詩
詩人論の詩
詩人宣言の詩を
いくつも書くことになりますが
河上との邂逅(かいこう)は
富永太郎や小林秀雄らとの邂逅にまして
詩人のレゾン・デートルを固める上での
バネになったことは間違いありません

 *
 地極の天使

 われ星に甘え、われ太陽に倣岸(ごうがん)ならん時、人々自らを死物と観念してあらんことを! われは御身等を呪ふ。
 心は腐れ、器物は穢(けが)れぬ。「夕暮」なき競走、油と蟲(むし)となる理想!――言葉は既に無益なるのみ。われは世界の壊滅を願ふ!
 蜂の尾と、ラム酒とに、世界は分解されしなり。夢のうちなる遠近法、夏の夜風の小槌(こづち)の重量、それ等は既になし。
 陣営の野に笑える陽炎(かげろう)、空を匿(かく)して笑へる歯、――おゝ古代!――心は寧ろ笛にまで、堕落すべきなり。
 家族旅行と木箱との過剰は最早、世界をして理知にて笑はしめ、感情にて判断せしむるなり。――われは世界の壊滅を願ふ!
 マグデブルグの半球よ、おゝレトルトよ! 汝等祝福されてあるべきなり、其(そ)の他はすべて分解しければ。
 マグデブルグの半球よ、おゝレトルトよ! われ星に甘え、われ太陽に倣岸ならん時、汝等ぞ、讃ふべきわが従者!

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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