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2010年10月30日 (土)

生前発表詩篇を読む続編   <16>童女

「童女」を読むときに
いつもひっかかるのが
第2連に出てくる「クリンベルトの夢」です

どの参考書にも
意味不明な語句としてしか
案内されていませんので
未消化のまま
通り過ごさなければなりません

飛行機虫と同格に読めますから
同じような意味を表す言葉だな
ほどに済ませばよいのですが
小骨が喉にひっかかるようでもありまして
もはやどうすることもできません

「緑の帯」
つまり
グリーン・ベルトだったのだろうか
「清い帯」
つまり
クリーン・ベルトだったのだろうか

いや
英語ではなくて
フランス語の何かではないか
いやドイツ語かなどと
少しだけ考えて
素通りするのが
いつものことです

飛行機虫は
広島方言で松藻虫
奈良方言では源五郎
長野方言ではあめんぼう
と角川全集の語註で案内されていますが
ゲンゴロウとアメンボウでは
大分違いますから
詩人の生地・山口に隣接する
広島で使われている松藻虫のことではなかろうかと
語註は指摘しているようです
(考証は労作というべきで、大岡昇平、吉田凞生、中村稔ら角川版編集委員にここであらためて敬意を表しておきます)

では松藻虫とはどんな形の虫なんだと
生物学、昆虫学、民俗学……と
関心は広がっていきますが
それにしても
詩人が何をイメージしていたかは
確定できませんから
詩の流れとか
詩の文脈とかに沿って
想像するしかないわけです

小学校へあがる前か
あがったかの女の子が
すやすやと静かに眠っているのを見ている詩人は

第4連
皮肉ありげな生意気な、
奴等の顔のみえぬひま、

とあるように
俗世の中に在るのですが
風の一つも吹いてくれるなと願うように
眠れる子をいとおしんでいるのです

これは
可愛さの真っ盛りであった
長男・文也のイメージかもしれませんし
ここに
長谷川泰子への思いが
含まれているという読み方も
あり得ないわけではありませんし
そう読んでも一向に
おかしくはありません

「童女」は
昭和11年(1936年)3月5日発行の
第2次「歴程」の創刊号に初出
「閑寂」
「深更」
「白紙(ブランク)」
「お道化うた」
とともに発表されました

 *
 童女

眠れよ、眠れ、よい心、
おまへの肌へは、花粉だよ。

飛行機虫の夢をみよ、
クリンベルトの夢をみよ。

眠れよ、眠れ、よい心、
おまへの眼(まなこ)は、昆蟲(こんちゅう)だ。

皮肉ありげな生意気な、
奴等の顔のみえぬひま、

眠れよ、眠れ、よい心、
飛行機虫の、夢をみよ。

(角川ソフィア文庫版「中原中也全詩集」より)

Senpuki04
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