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« ノート翻訳詩1933年<9>  孟夏谿行 | トップページ | 生前発表詩篇を読む続編   <1>暗い天候(二・三) »

2010年10月10日 (日)

生前発表詩篇を読む前に

中原中也の詩作品は
翻訳詩以外の詩が
短歌を含めて一括された上で
「山羊の歌」
「在りし日の歌」
「生前発表詩篇」
「末黒野(温泉集)」
「未発表詩篇」
の5グループに分類されます

「未発表詩篇」は
「ノート1924」をのぞいて全篇を
読み終えましたところで
「生前発表詩篇」へ移っていきますが
これは半数ほどをすでに読みましたから
「生前発表詩篇を読む続編」とします

これを読み終わると
短歌をのぞけば
残るはダダイズム詩「ノート1924」だけになります

「生前発表詩篇」の
ラインナップとそれぞれの初出誌を
ざっと見ておきましょう
これらの作品は
詩人生存中に雑誌・新聞などに発表されたものですから
詩人が実際に印刷物を手にとったことのあるものばかりです

暗い天候(二・三)      「白痴群」第5号
嘘つきに            同
我が祈り            同
夜更け             同第6号
或る女の子           同
夏と私             「桐の花」第15号
ピチベの哲学         「紀元」昭和9年2月号
我がヂレンマ         「四季」昭和10年4月号
寒い!            「歴程」第1巻第1号
雨の降るのに         「早稲田大学新聞」第4号
落日              同
倦怠(倦怠の谷間に)    「四季」昭和10年7月号
女給達            「日本歌人」昭和10年9月号
夏の明方年長妓が歌つた 「文学界」昭和10年9月号
詩人は辛い         「四季」昭和10年11月号
童女             「歴程」昭和11年3月創刊号
深更               同
白紙(ブランク)        同
倦怠(へとへと)       「詩人時代」昭和11年4月号
夢               「鵲」第10号
秋を呼ぶ雨         「文芸懇話会」昭和11年9月号
はるかぜ           「歴程」第1号
漂々と口笛吹いて     「少女画報」昭和11年1月号
現代と詩人         「作品」昭和11年12月号
郵便局            「四季」昭和12年2月号
幻想(草には風が)      同
かなしみ             同
北沢風景            同
或る夜の幻想(1・3)   「四季」昭和11年3月号
聞こえぬ悲鳴        「改造」昭和12年春季特大号
道修山夜曲         「黎明」昭和12年4月号
ひからびた心        「文芸懇話会」昭和12年4月号
雨の朝           「四季」昭和12年6月号
子守唄よ          「新女苑」昭和12年7月増大号
渓流             「都新聞」第17851号
梅雨と弟          「少女の友」昭和12年8月号
道化の臨終(Etude Dadaistique)「日本歌人」昭和12年9月号
夏(僕は卓子の上に)   「詩報」第1年第2号
初夏の夜に         「四季」昭和12年10月号
夏日静閑          「文芸汎論」昭和12年10月特大号

 * 
 暗い天候(二・三)

   二

こんなにフケが落ちる、
   秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる……
   お道化(どけ)てゐるな————
しかしあんまり哀しすぎる。

犬が吠える、蟲(むし)が鳴く、
   畜生! おまへ達には社交界も世間も、
ないだろ。着物一枚持たずに、
   俺も生きてみたいんだよ。

吠えるなら吠えろ、
   鳴くなら鳴け、
目に涙を湛(たた)えて俺は仰臥さ。
   さて、俺は何時死ぬるのか、明日か明後日か……
————やい、豚、寝ろ!

こんなにフケが落ちる、
   秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる。
   なんだかお道化てゐるな
しかしあんまり哀しすぎる。

   三

この穢(けが)れた涙に汚れて、
今日も一日、過ごしたんだ。

暗い冬の日が梁(はり)や壁を搾(し)めつけるやうに、
私も搾められてゐるんだ。

赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、
昆布や烏賊(するめ)や洟紙(はながみ)や首巻や、

みんなみんな、街道沿ひの電線の方へ
荷馬車の音も耳に入らずに、舞ひ颺(あが)り舞ひ颺り

吁(ああ)! はたして昨日が晴日(おてんき)であつたかどうかも、
私は思ひ出せないのであつた。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

Senpuki04
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