生前発表詩篇を読む前に
中原中也の詩作品は
翻訳詩以外の詩が
短歌を含めて一括された上で
「山羊の歌」
「在りし日の歌」
「生前発表詩篇」
「末黒野(温泉集)」
「未発表詩篇」
の5グループに分類されます
「未発表詩篇」は
「ノート1924」をのぞいて全篇を
読み終えましたところで
「生前発表詩篇」へ移っていきますが
これは半数ほどをすでに読みましたから
「生前発表詩篇を読む続編」とします
これを読み終わると
短歌をのぞけば
残るはダダイズム詩「ノート1924」だけになります
「生前発表詩篇」の
ラインナップとそれぞれの初出誌を
ざっと見ておきましょう
これらの作品は
詩人生存中に雑誌・新聞などに発表されたものですから
詩人が実際に印刷物を手にとったことのあるものばかりです
暗い天候(二・三) 「白痴群」第5号
嘘つきに 同
我が祈り 同
夜更け 同第6号
或る女の子 同
夏と私 「桐の花」第15号
ピチベの哲学 「紀元」昭和9年2月号
我がヂレンマ 「四季」昭和10年4月号
寒い! 「歴程」第1巻第1号
雨の降るのに 「早稲田大学新聞」第4号
落日 同
倦怠(倦怠の谷間に) 「四季」昭和10年7月号
女給達 「日本歌人」昭和10年9月号
夏の明方年長妓が歌つた 「文学界」昭和10年9月号
詩人は辛い 「四季」昭和10年11月号
童女 「歴程」昭和11年3月創刊号
深更 同
白紙(ブランク) 同
倦怠(へとへと) 「詩人時代」昭和11年4月号
夢 「鵲」第10号
秋を呼ぶ雨 「文芸懇話会」昭和11年9月号
はるかぜ 「歴程」第1号
漂々と口笛吹いて 「少女画報」昭和11年1月号
現代と詩人 「作品」昭和11年12月号
郵便局 「四季」昭和12年2月号
幻想(草には風が) 同
かなしみ 同
北沢風景 同
或る夜の幻想(1・3) 「四季」昭和11年3月号
聞こえぬ悲鳴 「改造」昭和12年春季特大号
道修山夜曲 「黎明」昭和12年4月号
ひからびた心 「文芸懇話会」昭和12年4月号
雨の朝 「四季」昭和12年6月号
子守唄よ 「新女苑」昭和12年7月増大号
渓流 「都新聞」第17851号
梅雨と弟 「少女の友」昭和12年8月号
道化の臨終(Etude Dadaistique)「日本歌人」昭和12年9月号
夏(僕は卓子の上に) 「詩報」第1年第2号
初夏の夜に 「四季」昭和12年10月号
夏日静閑 「文芸汎論」昭和12年10月特大号
*
暗い天候(二・三)
二
こんなにフケが落ちる、
秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる……
お道化(どけ)てゐるな————
しかしあんまり哀しすぎる。
犬が吠える、蟲(むし)が鳴く、
畜生! おまへ達には社交界も世間も、
ないだろ。着物一枚持たずに、
俺も生きてみたいんだよ。
吠えるなら吠えろ、
鳴くなら鳴け、
目に涙を湛(たた)えて俺は仰臥さ。
さて、俺は何時死ぬるのか、明日か明後日か……
————やい、豚、寝ろ!
こんなにフケが落ちる、
秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる。
なんだかお道化てゐるな
しかしあんまり哀しすぎる。
三
この穢(けが)れた涙に汚れて、
今日も一日、過ごしたんだ。
暗い冬の日が梁(はり)や壁を搾(し)めつけるやうに、
私も搾められてゐるんだ。
赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、
昆布や烏賊(するめ)や洟紙(はながみ)や首巻や、
みんなみんな、街道沿ひの電線の方へ
荷馬車の音も耳に入らずに、舞ひ颺(あが)り舞ひ颺り
吁(ああ)! はたして昨日が晴日(おてんき)であつたかどうかも、
私は思ひ出せないのであつた。
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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