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2010年10月19日 (火)

生前発表詩篇を読む続編   <9>寒い!

「寒い!」は
「歴程」第1巻第1号(昭和10年5月1日発行)に発表された作品
制作は
詩末尾に(一九三五・二)とあり
1935年2月が確定されますから
帰省中の作であることがわかります
詩人は
昭和9年12月9日から同10年3月末の間
故郷山口に帰省していました

「歴程」の同じ号に
「北の海」が載りましたが
この詩の末尾にも
(一九三五・二)とあり
制作時期が同一であることがわかりますが
ほかにも「我がヂレンマ」が
同時期の制作で
山口で作られたことになります

「我がヂレンマ」で
村落共同体で暮すことの
息苦しさを歌った詩人が
今度は
「寒い」と表現を変えて歌うのは
何に関してなのでしょうか


小鳥

飛礫
地面
自動車 
タイヤ



……

これらが
この詩では
みな「寒い」の主語です
「寒い」を誘発する原因です

寒いとは
そもそも
村落共同体の属性ではありません
詩人の身体が受容する
自然現象に過ぎませんが
では
詩人は自然現象を歌ったのかといえば
そうではありますまい
「喩」として
「寒い」といっているだけです

目に見える
なんでもかんでもが「寒い」のですから
これではやりきれないのは当然で
こうなっては
お行儀のよい人々に
笑われてバカにされようが
構いはしないから
ワーッと大声を出して
春を呼び寄せましょう

詩人を「寒い」と感じさせている
冬の景色……
街も山も
みんな打ち解けてこない
応えてこない
馴染んでこない

叫び出したいほどに
寒いと感じさせるものの正体は
いったい
何者(物)でしょうか

同じ時期に歌われた
「北の海」の
人魚ではない
海の浪の
空への呪いに通じていく何かでしょうか

 * 
 寒い!

毎日寒くてやりきれぬ。
瓦もしらけて物云はぬ。
小鳥も啼かないくせにして
犬なぞ啼きます風の中。

飛礫(つぶて)とびます往還は、
地面は乾いて艶(つや)もない。
自動車の、タイヤの色も寒々と
僕を追ひ越し走りゆく。

山もいたつて殺風景、
鈍色(にびいろ)の空にあつけらかん。
部屋は籠(こも)れば僕なぞは
愚痴つぽくなるばかりです。

かう寒くてはやりきれぬ。
お行儀のよい人々が、
笑はうとなんとかまはない
わめいて春を呼びませう……
     (一九三五・二)

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

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