« 生前発表詩篇を読む続編   <19>倦怠(へとへとの、わたしの肉体よ) | トップページ | 生前発表詩篇を読む続編   <21-1>秋を呼ぶ雨 »

2010年11月 3日 (水)

生前発表詩篇を読む続編   <20>夢

「夢」は
昭和11年7月15日を発行日とする
「鵲」第10号に発表されました

「鵲」は
「かささぎ」と読み
カラスの仲間の鳥のことです

当時
満州の大連市で発行されていた
文学同人誌で
大分・国東出身の詩人・滝口武士が編集人
目次がなく
代わりに執筆者一覧があり

春山行夫
中原中也
安西冬衛
立原道造
阪本越郎
村野四郎

といった
知る人ぞ知る
錚々(そうそう)たるメンバーが
名を連ねていました

昭和11年6月23日の日記に
文学界八月号と「鵲」第十輯に詩稿発送
とあることから
制作日もこの日
昭和11年(1936年)6月23日と推定されています

一見して
「分かち書き」の詩であることが
目に飛び込んできますが
これは
当時、岩野泡鳴が提唱し
広まっていた詩の表記法で
中原中也も
これを「曇天」などで
実践していることは有名です

2-3-4音を
基本にした音数律ですが
詩人はここで
第7行、8行に
5音を交えて
オリジナリティーを打ち出し
破調を楽しんでいるかのようなつくりです

詩の内容といえば
これも
詩人が時々作るフィクションか
古代神話か何かの一つで

ある夜のこと
鉄の扉の隙間を覗(のぞ)くと
大荒れの海は轟(とどろ)き
私の髪の毛は強風に靡(なび)いて
炎が揺れては消えていったのが見えた

炎が消える直前
子どもとその母親が
荒れる海の波間にさらわれ
真っ白い腕をもがれて
消えて行くのを見た
という物語の断片です

それを
夢として
歌っている詩です

メディアに合わせて
色々な試みを工夫したようですが
音感を重んじた詩人のことで
ここでは

ヒトヨ
カネドノ
スキヨリ
ミレバ

ウミハ
トドロキ
ナミハ
オドリ

ワタシノ
カミゲノ
ナビクガ
ママニ

ホノオハ
ユレタ
ホノオハ
キエタ

この音数律を
味わうだけでも
楽しいものです

 *
 夢

一夜 鉄扉(かねど)の 隙より 見れば、
 海は轟(とどろ)き、浪は躍り、
私の 髪毛(かみげ)の なびくが まゝに、
 炎は 揺れた、炎は 消えた。

私は その燭(ひ)の 消ゆるが 直前(まへ)に
 黒い 浪間に 小児と 母の、
白い 腕(かひな)の 踠(もが)けるを 見た。
 その きえぎえの 声さへ 聞いた。

一夜 鉄扉の 隙より 見れば、
 海は 轟き、浪は 躍り、
私の 髪毛の なびくが まゝに、
 炎は 揺れた、炎は 消えた。

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

Senpuki04
にほんブログ村:「詩集・句集」人気ランキングページへ
(↑ランキング参加中。ポチっとしてくれたらうれしいです。)

 

« 生前発表詩篇を読む続編   <19>倦怠(へとへとの、わたしの肉体よ) | トップページ | 生前発表詩篇を読む続編   <21-1>秋を呼ぶ雨 »

中原中也/生前発表詩篇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 生前発表詩篇を読む続編   <20>夢:

« 生前発表詩篇を読む続編   <19>倦怠(へとへとの、わたしの肉体よ) | トップページ | 生前発表詩篇を読む続編   <21-1>秋を呼ぶ雨 »

2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

最近の記事

カテゴリー

無料ブログはココログ