ダダ詩「ノート1924」の世界<17>幼き恋の回顧
幼い日の恋にも
大人の恋と似て
マッチを擦るような
はかなさがあったものでしたっけ?
残った軸木が
炭素になって
地面の上で風に揺れていた光景なんて
そういえば
夏の夜に
花火遊びをした後の
祭りの後の寂しさとして
手に取るように
目に焼きついているものですね
だれにも!
青春の祭りも
もっと
爛熟した年頃の火遊びのお仕舞いも
きっと
老いらくの恋でさえも
祭りの後の寂しさは
同じようなものかもしれません
「幼き恋の回顧」は
詩人17歳
青春の盛りに
昨日のことを
幼き恋として回顧しては
なくなりそうな恋が
ふたたび燃えあがっては
また消えて……
寝覚めの会話は
燃えカスみたい
繰り返しのアンニュイさえ漂うけど
また燃える時がくるのでしょうか
それでも
揮発してなくなりそうな
夕べが訪れると
二人は
また会いました
圧搾酸素でもっている恋って
どんなものだかご存知でしょうか
実はいま平凡なのですが
この間燃えたばかりの勢いが
二人を一緒にひっぱっていきます
ナニの方にね
ソーセージは、肉体
紫色は、燃え盛ること
「話の種」は、尽きないおしゃべり……
隠喩のつもりが
曲がり損ねた
変化球になって
すっぽ抜けました
*
幼き恋の回顧
幼き恋は
寸燐(マツチ)の軸木
燃えてしまへば
あるまいものを
寝覚めの囁きは
燃えた燐だつた
また燃える時が
ありませうか
アルコールのやうな夕暮に
二人は再びあひました――
圧搾酸素でもてゝゐる
恋とはどんなものですか
その実今は平凡ですが
たつたこなひだ燃えた日の
印象が二人を一緒に引きずつています
何の方へです――
ソーセージが
紫色に腐れました――
多分「話の種」の方へでせう
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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