カテゴリー

2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« ダダ詩「ノート1924」の世界<15>迷つてゐます | トップページ | ダダ詩「ノート1924」の世界<16-2>春の夕暮 »

2011年3月26日 (土)

ダダ詩「ノート1924」の世界<16>春の夕暮

「春の夕暮」は
第一詩集「山羊の歌」の
トップに置かれることになる
「春の日の夕暮」の
原形です。
第一次形態です。

ダダイズムの詩が書きとめられたノート
「ノート1924」から
自選詩集「山羊の歌」へ収録された
唯一の作品です。

そして
後に
「在りし日の歌」の後記に

序(つい)でだから云ふが、「山羊の歌」には大正十三年春の作から昭和五年春迄のものを収めた

と、詩人は記すのですが
この「大正十三年春の作」とは
まさしく
この「春の夕暮」のことです

詩集中の
最も古い作品が
「春の日の夕暮」ですが
その原形が
この「春の夕暮」なのです

詩題も
はじめは「春の夕暮」でしたし

トタンがセンベイ食べて

という冒頭のフレーズは
「山羊の歌」中の「春の日の夕暮」で
あまりにも有名ですが
発表される前の一次形態では
「トタン」ではなく
「塗板」でした。
「トタン」のルビもなかったのです。

第2連第3行
ただただ月のヌメランとするまゝに

も、元は
たゞたゞ青色の月の光のノメランとするまゝに

だったのです

ヌメランではなく
ノメランだったのです

第4連にもはじめは
ポトホトと臘涙(ろうるい)に野の中の伽藍は赤く

と、難解な
「臘涙(ろうるい)に」という語句がありました

このように
詩人は
「山羊の歌」に発表するまでに
幾つかの変更を加え
「山羊の歌」に発表して以後も
わずかではありますが
他に発表する時には
変更を加えています。
この詩も
4次形態の存在が分かっています。

一つの詩に
4種類の形があるということですが
これは
それほどにこの詩に愛着をもっていたことを示していますし
愛着という点でいえば
「ノート1924」の中から
この詩だけを
「山羊の歌」に収録したということに
はっきりと表れているということなのです

 *
 春の夕暮

塗板(トタン)がセンベイ食べて
春の日の夕暮は静かです

アンダースロウされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は穏かです

あゝ、案山子(かかし)はなきか――あるまい
馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい
たゞたゞ青色の月の光のノメランとするまゝに
従順なのは春の日の夕暮か

ポトホトと臘涙(ろうるい)に野の中の伽藍は赤く
荷馬車の車、 油を失ひ
私が歴史的現在に物を言へば
嘲(あざけ)る嘲る空と山とが

瓦が一枚はぐれました
春の日の夕暮はこれから無言ながら
前進します
自らの静脈管の中へです

(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)

Senpuki04
にほんブログ村:「詩集・句集」人気ランキングページへ
(↑ランキング参加中。ポチっとしてくれたらうれしいです。)

« ダダ詩「ノート1924」の世界<15>迷つてゐます | トップページ | ダダ詩「ノート1924」の世界<16-2>春の夕暮 »

0011中原中也のダダイズム詩」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ダダ詩「ノート1924」の世界<16>春の夕暮:

« ダダ詩「ノート1924」の世界<15>迷つてゐます | トップページ | ダダ詩「ノート1924」の世界<16-2>春の夕暮 »