ダダ詩「ノート1924」の世界<31> (女)
(女)は
前作(ツツケンドンに)の
焼きなましのような詩であることは
女は鋏を畳の上に出したまゝ
出て行つた
と、第4連にあるので
ツツケンドンに
女は言ひつぱなして出て行つた
から、たいして時間を経ていないうちに
作られたものということが
わかりますが
こちらには
男が女より偉い、と
思ってきた男が
女が男より偉い、と
言わざるを得なくなった
焦りみたいなものが
尻尾(しっぽ)を出しているような
流れが詩の中にあります。
女
吹取紙を早くかせ
恵まれぬものが何処にある?
マッチの軸を小さく折つた
このえばった口調・命令口調(1行目)や
横暴な口の利き方(2行目)
その会話の最中に、
詩人は煙草をふかしながら
マッチ棒を指先で細かく折ったのです(3行目)
私ってあんたの道草なの?
摘み草というのさえもったいないわ
あんたは、女の目的がわかっていない
原因なしに涙なんか流さないわよ、と
女に言われてしまうのです
そう記すのは詩人のほうですから
多少、作意があったとしても
実際の会話に
かなり近いものがあったとみてよさそうな
ストレートな表現です
そして一転ダダになります
飛行機の分裂
目的が山の端をとぶ
飛行機が飛行機の体(てい)をなしてないじゃないか
目的はあるにしても
山の端を飛んでらあ
ここに詩人の真意
もしくは詩の意図が込められていそうですが
それにしても
織物
秘密がどんなに織り込まれたかしら
織物するのは勝手ですよ
どんな秘密を織りましたか
と、ストレートな表現が露出します
それで
女は出て行ってしまうのです
考えてみりゃあ
自分を弁解することもなかったな
ひたすら
立派な男のことを並べ立てるだけだった
最後には
女は偉いよ
男より偉いよ
と言わざるを得なくなっているのは
本当のところの感じがします
やや
反省の気持ちが交ざっています
*
(女)
女
吹取紙を早くかせ
恵まれぬものが何処にある?
マッチの軸を小さく折つた
女
自分は道草かしら
女は摘草といふも勿体ないといつた
俺は女の目的を知らないのださうだ
原因なしの涙なんか出さないと自称する女から言はれた
飛行機の分裂
目的が山の端をとぶ
織物
秘密がどんなに織り込まれたかしら
女は鋏を畳の上に出したまゝ
出て行つた
自分に理窟をつけずに
只管(ひたすら) 英雄崇拝
女は男より偉いのです
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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