ダダ詩「ノート1924」の世界<21>(仮定はないぞよ!)
前作(テンピにかけて)に引き続き
芸術論議のほとぼりは
夜遅く一人机に向かう段になっても
冷めません
上手く伝えきれなかったところを
もう一度
確認するかのように
アイツが
もしもだよ……と言って
展開したところ
それはないぜ
それはありもしない仮定っていうもんだぜ
それに
俺が考えている名辞以前ってのは
先天的観念なんてもんじゃないぞ
何にもないというところから組み立てていったまではいいさ
そして先天的観念というとこで合致したまではいいさ
(そこからだよ、肝心なところは)
理屈が面倒になっちゃったのさ
(だれもがぶちあたるんだ)
これは屋根みたいなものさ
(突き抜けられないんだ)
意識した親切心をもって
場をまとめようなんて俺はしないけどね
(お愛想をいうつもりはないよ)
忠告する元気があればの話だけどさ
キミらが住んでいる象牙の塔の雨漏りを
修繕しにいってもよいのだがね
コウモリ傘を杖代わりにしてさ
街行く人々を眺めていたらさ
ほんとに真面目にさ
くたびれもせずにさ
世の中のためになる仕事をさ
シコシコ文句の一つも言わずにさ
よくやってくれていると思うよ
センチメンタリズムに
迎合しないでいれば
趣味の本質
つまり本当にやりたいこと
それを放棄してしまうことになるのかっていう
まあ俺の問題でもあるんだな
詩のことに
ふれているのでしょうか
一方的な攻撃の調子ではなくなって
最後には
俺の問題にまで
たどりついています
*
(仮定はないぞよ!)
仮定はないぞよ!
先天的観念もないぞよ!
何にもない所から組立てゝ行つて
先天的観念にも合致したがね
理屈が面倒になつたさ
屋根みたいなものさ
意識した親切は持たないがね
忠告する元気があれば
象牙の塔の修繕にまはさうさ
カウモリ傘にもたれてみてゐりやあ
人は真面目にくたびれずに
事業つてやつをやつて呉(く)れらあ
サンチマンタリズムに迎合しなきや
趣味の本質に叛(そむ)くかしらつてのが
まあまあ俺の問題といへば問題さ
(角川ソフィア文庫「中原中也全詩集」より)
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